第3話 亮太くんと私
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———ガラガラガラ
「はぁぁぁい、席つけぇぇぇ!」
「ああ!また山下先生かよ!!」
「なんだよ嫌なのか??」
「いや~だって先生、織田信長みたいに怖えんだもん」
「確かに、お前がホトトギスだったら鳴いても殺してるだろうからな」
山下先生とやんちゃ男子のやり取りでガハハハッとクラスのみんなが一斉に笑った。
今日は3年生になって初めての日本史の授業だった。昨年同様、山下先生が担当。
山下先生は遅刻にめちゃくちゃ厳しい。危なかった。七海のせいで授業遅刻して怒られるところだったじゃねーか。
先生が教科書のページ数を私たちに教え、先生の長々とした歴史の説明が始まった。
喋ってる姿を見てると、本当に日本の歴史が好きなんだなーって思う。
正直私は日本史に全く興味がない。
つい最近、日本史ブームで「れきじょ」とかいう言葉が流行ってたけど、私はその人たちのことが全く理解できない。
ああ、退屈だなぁ。走りたいなぁ。
ペン回しをしながら暇を持て余してると、私の左肩をトントンとされたのを感じた。
ん?と思いながら左側を向くと、亮太くんがこちらを見ていた。
「昨日、大会だったんだって?」
先生にバレないよう、私にしか聞こえない声量でコソコソと聞いてきた。
私も彼にしか聞こえない声量でコソコソと答える。
「うん、ただの記録会だけどね」
「どうだった?」
「自己ベスト出せたよ」
「ええ?スゲーじゃん!!」
彼の声量が明らかに大きくなってしまった。前の方の席の人全員がじろっとこちらを見た。先生も話をやめて、こちら側をにらみつけている。
「はい、おしゃべり禁止ですよー静かにしてくださいねー」
先生の優しい口調が逆に怖い。周りのクラスメイトはプププッと控えめに笑っている。
すいません、とだけ言ったら先生は持っていた教科書に再び目をやり、喋りだした。
それを見計らって、今度は私が彼の右肩をトントンと叩いた。
「亮太くんは?試合はまだやってないの?」
「まだやってない。今週の土曜に練習試合があるんだ」
「そうなんだ。頑張って」
私は先生に見えない範囲内で小さくガッツポーズして彼を応援した。
彼も同じように、控えめなガッツポーズを私だけに見せてくれた。
亮太くんは、野球部のキャプテンだ。
2年生の時から同じクラスになり、1年経った今、初めて彼と近い席になった。
別にめちゃくちゃ仲がいいわけではないけど、こうして部活の事とかいろんなことについて、軽くおしゃべりをするような仲だ。
私たちが部活で走っている時も、近くを野球部がランニングしている時がある。
その時の亮太くんの顔は真剣そのものだ。めちゃくちゃ野球が好きなんだなーって
思う。
何かに夢中になっている人ってカッコいい。
しばらく喋ってると、陸上部の話になった。
「なんか陸上部ってほんとすげえよな。みんな一生懸命に頑張ってるって感じで」
「そうかなあ。野球部もすごいと思うよ」
「いやいや、そっちと比べたら話にならないわ!なんか陸上はこう、、
ザ・強豪校って感じがしていいよね」
「ザ・強豪校、、、?」
なんだかわからないが、確かに私たち陸上部は他の部活や他の学校の陸上部から「強豪校」と呼ばれている。そりゃあ県大会で総合優勝を何回もしてるわけだし、「強豪校」といわれても当たり前か。
「強豪校か、、、、、」
私はそう呟きながら、天を仰いだ。強豪校という響きがなんか腑に落ちなかった。なぜかはわからない。今年の総合優勝が危ういから?そういうわけでもない。
しばらく天を仰いだ。ここは教室だから、天を仰いでも、天井と山下先生の顔しかない。
もっといい風景だったら気持ちいいだろうなあ……
……………ん?
山下先生の顔……??
「あ、」
「天井を見て何をしているのかな、石倉さん??」
その時、周りのみんながこちら側を見てガハハハハッと笑いが起きた。
亮太くんもハハッと軽く笑った。
やらかした。
「す、すいません」
「わかったならよろしい」
山下先生は怖いけど、ちゃんとこの場で許してくれるから、まだ優しいほうだ。
それから授業中は、姿勢を正し、ちゃんと前だけを見て、無理やりでも先生の話を聞いていた。あぁ…つまらない…走りたい…山下先生とは一生分かり合えないかも…
たぶん亮太くんも、先生の話を聞かされながら心の中で同じようなことを思っていた…
…と思う。
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