第2話 七海と私
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「ちょっと咲妃ちゃあ~~ん。動かないでよおお~~」
「ええーもうずっと背筋伸ばしてると疲れるんだけど」
「もうちょい我慢しておくれありんす」
たまに、七海は変な日本語を使う。
硬いイスに座って、じーっとして、もう10分くらいは経った。
まさか、お昼休みに彼女のクラスの教室に呼ばれて、こんなことに時間を使うとは思いもしなかった。
「七海、なんで突然私の絵を描こうと思ったの?」
そう聞くと、彼女は突然ぐへへっと奇妙な笑い方をした。
「最近、美術部でね、肖像画を描く機会があったの。そしたら、なんかハマっちゃってさ。なんていうかこう、人の表情をしっかり視覚で感じながら、それを鉛筆や色鉛筆でしっかり表現して、人の優しさや力強さみたいなものを線の太さや細さでこう…」
「うん、七海ごめん。全然何言ってるか、わっかんない」
「まあ、とりあえず肖像画が好きになったのさ!はいはい、咲妃ちゃん笑って笑って~スマイルスマイル!!」
本当に変な子だな。これを言うと、うるさいなあ~と怒ってくるから、心の中で笑っておく。それが表情となって表れたのか、私は意外にも笑顔を簡単に作れた。
七海がいいねいいね~、と変態カメラマンみたいな言い方で褒めてきた。
七海とは小さい頃から一緒だった。彼女は小さい頃から絵を描くのが好きで、いつも何かを描いては私にそれを見せてきた。私は彼女と正反対な性格で、絵を描いたりするよりかは、外に出て鬼ごっこしたり、バドミントンしたり、サッカーをして遊ぶのが好きだった。
今思うと、いまだに幼なじみとして、こうして高校でもずっと一緒にいるのが不思議でしょうがない。こんなに趣味も性格も違うし、変人だし。
まあだからこそ仲良くなれるのかもしれない。
正直言って、彼女の絵の上手さは小さいときからピカイチだった。
やっぱり変人なだけあって、そういう美術センスみたいなものは抜群なのかもしれない。
小さいときと変わらず、絵を描いている時の彼女の顔は美しい。
その穏やかな表情を見ると、本当に絵を描くのが好きなんだな、とつくづく思う。
「ちょっと咲妃ちゃん!!笑顔じゃなくなってきてるよ!キープスマイリング!」
「あーごめんごめん」
まるで私は子供の言うことを聞いている母親のようだ。私でいう志穂みたいな感じ。
そう思うとなんだか笑えてくる。
また、自然と笑顔をつくることができた。
「できた!とりあえず下書き!!」
そういって私に下書きの肖像画を見せてきた。
「お、、おお、、、」
「え、何その反応」
「いや、なんかめちゃめちゃリアルすぎて怖いわ」
「自分の顔見て、怖がってるの?おもしろ!!」
そして、自分の姿を客観視したことで、もうひとつ気づいたことがあった。
「てか、私ってこんなに髪短いんだね」
「そうだね!すっごいボーイッシュ!咲妃ちゃん似合ってるよ!」
「そうかなあ~」
「あれ、もしかして、髪伸ばしてオシャレでもしたいのかな??咲妃ちゃんも女の子だなあ~~」
そういわれて、なぜかドキッとしてしまった。別に七海だから言ってもいいか。
「うん、まあこう見えても女子高生だし、そういうのも興味ないわけではないよ」
「ええ~じゃあすればいいのに~!咲妃ちゃん長髪普通に似合いそう!」
そういわれると、すごく嬉しい。でも私はそれを否定せざるを得なかった。
「できないよ。陸上部のルールだもん」
「ええ?ルール?」
彼女はわかりやすく首を左に傾けた。
「うん。髪は長くしちゃダメなの」
左に傾いていた首が元に戻る。そして彼女は言った。
「そのルール、なんであるの?」
「え?…」
そういわれると、どう答えていいかわからない。しばらく考えてしまった。
———キーンコーンカーンコーン
そのタイミングでお昼休みが終わった。
早く自分の教室に戻らなきゃ。その一心で、とりあえずそれっぽく答えてみた。
「…んーとにかくルールなの!先輩たちが守ってきた伝統なの!!」
「ふぅぅ~ん」
なんだその興味なさそうな返事は。考えてた時間がバカみたいじゃないか。
「じゃあね!また帰りの時にね!」
そういって私は急いで教室を出て、自分のクラスへ向かった。
向かう途中、なぜかさっきの七海の質問が頭の中でずっと繰り返されていた。
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