転校生6p

「方美、鏡はもっているか?」

「ええ、お姉様が常に手鏡を持つようにとおっしゃったので」

「では、その鏡で自分の顔を見てごらん」

「はい……」

 方美は鞄から丸い鏡の入った古めかしい手鏡を取り出した。

 その手鏡は、司が方美へ贈った物だった。

 鏡はピカピカに磨かれ、鎌倉彫で彫られた藤の花の彫刻が、赤く、つややかに輝いている。方美がこの手鏡を毎日磨いているからだ。

 司から贈られたものを、方美は何でも大切にしている。

 だから司が昔から大事に持っていた物だったと言われて譲り贈られた手鏡の手入れを方美は欠かさない。

 貰ったものは大切にする。

 そう言うと聞こえはいいが、方美のソレはまるでそうする事で、司への忠誠心を示そうとしているようだった。

「さあ、方美、早く、早く、その鏡で自分の顔を映して見てごらん」

「……ええ」

 司に催促されて、方美は手にした鏡に自分の顔を映した。

 鏡には、当然、方美の顔が映る。

「方美、鏡に何が見える?」司のその問いに、方美は「私です、私の顔です」と答えた。

 司は、方美の台詞を聞くと、鏡を見たままでいる方美の鏡を持っていない方の手を素早く、乱暴に掴んだ。

 司の指の爪がグイッと方美の白い手に食い込む。

「痛いっ!」

 方美は叫ぶ。

 司は痛がる方美から手を放すどころか、よりいっそう、その手に力を込める。

「方美、お前、違うだろう。良いか、良く聴け……その顔は、私達の顔だ。ほら、見ろ」

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