第9話 一泊
「レオナード君は王族の人なの?」
「…レオでいい、君付けもいらない」
「分かった!あのね、父さんが王族の人はみんな王都に住んでるって言ってたの」
「あぁ、正確には王都にある城だ。国王である父上も、従者と一緒に暮らしている」
「すごいなぁ〜!いつか行ってみたいな…」
「別に城があるくらいだが、もし来たら知らせてくれ。その時は、今日の礼として僕が王都を案内しよう」
少し休んで帰り道を教えてもらうはずが、家に招かれさらに夕食までご馳走になってしまった。いつも城の中で食べるフルコースとは違い、家庭的なもので出された料理の全てが新鮮で美味しかった。特に野菜たっぷりのスープは味付けが好みでまた作って欲しいくらい。
僕はあの男とルークが一緒に夕食を作っていたのを眺めてた。というより、手伝わせてもらえなかったという方が正しい。客人は座ってろと、言われてしまったからだ。二人を見て楽しそうに料理をしている姿に少し羨ましくも思った。
父上は常に忙しくて、僕に構う時間はほぼないに等しい。しかし話をすれば聞いてくれるし、母さんも僕を抱っことかしてくれる。けどそれもほんの僅か。一日のうち、30〜1時間くらい僕に時間を使ってくれただけでもありがたい。国王の息子であることは誇りに思うが同時に寂しく思う。
いつか父上や母さん、兄さんと一緒にどこか遊びに行きたい。少しでいい、4人一緒に。
夕食を食べたあと、ルークと話をしたが予想通り4歳だと分かった。さらに、お互い同年齢の子と話すのは初めてだったということもあり、"友達"になることができた。
そして一緒にお風呂に入ったが、二人で入ってもまだ余裕のある湯船で、つい二人ではしゃいでしまった。友達とはこういうものなのかと密かに思っててた。その後あの男にはしゃぎすぎだと注意されたが、僕もルークも気にせずはしゃぎ続けた。
今は寝室のベットの上でルークと王都について話していた。この森で生活しているから、街の様子は出かける時しか見ないらしく、人々の暮らしが気になるらしい。ちなみに今日はもう遅いからと一晩泊まることになり、明日王都まで送ってくれるらしい。……寝る場所はルークのベッドに入れさせてもらう。
そしてルークは、父さんと呼んでいるけれど、あの男が本当の親ではないことを話してくれた。これでますますあの男の謎が深まった。
「…そういえばルーク、この森のことを教えてほしい」
「この森?」
「あぁ。森に入ってから嫌な感じがするんだ。誰かに見られてる」
「ん〜とね、なんて言ったらいいのかな…」
言いにくいのか言葉を続けない。しかしそれだけなにか秘密があるということか…?
ここで余談だが、ルークもあの男も顔は整ってる方だろう。今でさえ答えを探す顔の表情を見たら、多分みんな骨抜きだろうな。城の侍女達に見せたら遊ばれるな…完全に。特にハンネが好きそうな顔だ。城に遊びに来る時は覚悟が必要だと後で言っておこう。
その時、キィ…と寝室の扉が開き、あの男が入ってきた。
「あっ、父さん!この森のこと教えてってレオが!( コソ…僕より父さんの方が詳しいと思うから)」
『…話しても良いが、二人とも寝る準備したのか?明日はレオナード送るから朝は早いぞ』
しれっと名前呼びするこの男。やっぱりどこか信用できない。風呂上がりでまだ少し髪が濡れているが、気にしないのか本を片手に入ってきた。
「…なぁ、いい加減教えてくれ。一体何者なんだよ、父さん?」
父さん呼びはさっきの仕返しだ。さぁなんて答える?リージェンの紋章を知ってるなら国民の中に黒髪がいないことを知っているはず。大方他国からやってきたという答えが返ってくるはずだが…
『まだ言っておらんかったな、我はドラゴンだ。それと、お前の父さんになった覚えはない』
…は、え…?ドラゴン、?ドラゴンって…あの?
「僕達もう寝る準備は万端だよ。それより父さん、髪濡れたまま寝ると風邪ひいちゃうよ?」
『風邪など引かん。そのうち乾く』
「だーめ。バスタオル持ってくるからちょっとまってて!」
…パタン、とルークが扉を閉めた音でハッとした。
「…っ、本当に、あのドラゴンなのか?」
『だからそうだと言っておる。何ならルークにも聞いてみろ。我の名はヴァルガ。今はヒト型になっているがヴァルガの名くらいは聞いたことがあるだろう?』
本来の姿もいつか見せる、といい本を読み出した。ヒト型だといわれても、本当の人間しか見えないから余計信じられない。じっと観察してたらルークがタオルを抱えて帰ってきた。案外世話焼きな性格だと思った。
「父さん、髪の毛拭くから本読むのだめ」
サッと本を取り上げ、サイドテーブルに慣れた手つきで置いた。
『…ルーク、別に拭かんでも、』
「いいの、僕が拭きたいんだから」
よいしょ…とベッドに足を伸ばして座ってるあの男、ヴァルガの太もも辺りに跨りタオルで髪を拭き始めた。ヴァルガもルークの身長に合わせて頭を少し低くしていた。
漆黒の髪から落ちてた水滴がタオルに吸われていくのを確認しながら、ルークは丁寧に拭いていた。いざ拭かれ始めたら大人しくなっているヴァルガをみて意外だなと思いつつベッドの中から鑑賞させてもらった。
「はいっ!髪の毛かわいた!」
実に15分くらいか。最初は跨ってたルークも届かないところになると膝立ちして、一生懸命拭いていた。それはもう、楽しそうに満面の笑みを浮かべながら。
『ありがとうな、ルーク。タオルは後で置いてくるから、もう寝ていろ。レオナード、詳しいことはまた明日話す』
「…分かった」
頭を撫でられて嬉しそうにしながらやっとベッドの中に入ってきた。ヴァルガはタオルを置きに行くために部屋を出た。
「よかったな頭撫でてくれて」
「うんっ!レオ狭くない?大丈夫?」
「狭くないしむしろ心地いい。明日までよろしくな、ルーク」
「あ…そっか、レオとは明日でお別れなんだ…」
明日でこの不思議な森から出て城へ帰る。どこまで送ってくれるかは知らないけど、王都まで行けばなんとかなるだろう。そのことを伝えると分かりやすくしゅんとされてしまった。まるで子犬みたいで少し可愛く思えた。
「…ならひとつ約束だ。必ず、また会おう。そのときは──────。それまでお互いやるべきことをしておこう」
「分かった!じゃあ忘れないようにレオにこれあげる」
そういって自分の首元からそれを外し、目の前に持ってみせた。
「鱗のペンダント…?」
「それね、父さんの鱗なんだ」
お風呂場の時もルークの首にかけてあったひし形の黒い鱗。ただ黒いだけでない、
「大切なものなんじゃないのか?」
「レオだからいいんだ。それに、鱗は自然に剥がれたやつだし、まだ持ってるから僕とお揃いっ!」
「…大切にする、ありがとう。…そうだ、代わりになればいいけどこれあげる」
ペンダントを首にかけてから、右手の中指にはめてある指輪を渡した。翡翠色の石で作られていて、細かい銀細工で上下を一周して囲んであり、一般市民は手が出せない指輪だ。職人技に感心してしまうほど高価な指輪をなぜ簡単にあげてしまうのか。理由は一つ。ただ単に、ヴァルガと同じ瞳の色でルークが喜ぶと思ったからだ。
「わぁっ、父さんと同じ瞳の色でとても綺麗…。ほんとにいいの?大切なものとかじゃない?」
「クス、同じこと聞いてるぞ。ただの指輪だけど、ルークに身につけててほしい」
ここで高価なものだと教えれば受け取ってくれないことは100%目に見えるから、あえてそこはルークに黙っとく。
とても大事そうに持つルークを見て、あげてよかったと思うがここまで喜ばれると少し照れくさい。どこに付けようかな〜、なんて声が聞こえたからサッと右手をとり中指にはめた。
「悪いものから身を守り、自分の意志を強くする。それが右手の中指」
「っ!ありがとうレオ!大事にするっ」
しばらくしてルークは寝息を立て始めた。ヴァルガもすでに戻ってきていて、また本を読み出している。ルークの右手にはあげた指輪が静かに主張していた。
明日のことを考えると憂鬱だ。城に帰ったらまずは父上のところ。そのあとも沢山の人のところに謝らなきゃ行けない、けどめんどくさいなぁ…。まぁ、明日のことは、明日の僕に任せてさっさと寝よう…。
その翌日、ある意味騒ぎになることをまだ知らなかった。これが一番めんどくさかったと従者に文句垂れるレオナードが度々目撃されたとか。
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