第2話 お出かけ
子を拾った。それも赤子。
白銀の髪に深い碧色の瞳。このテジャの森に捨てられた可哀想な赤子だ。殺気を出して死ぬくらいなら、それでいいと思った。魔物たちに喰われて死ぬよりは良いだろうと。
だが赤子は死ななかった。
ましてや魔物たちや我相手にキャッキャッと笑っていられるほどだ。
肝が据わっていると思った。生きたいと願ったから、我が育てることにした。他の魔物たちは少し頼りないからな。
こいつのオトナの姿が見てみたい、と思う。魔物を恐れないこいつは、どんなオトナになるのかと。
とりあえず赤子に甘い実を擦ったものを食べさせて、魔法で眠らせた。次にこの赤子が目を覚ますのは、翌日の朝。余計な体力を使うと疲れるだけだからな。寝るのにはまだはやすぎる時間だが、赤子は成長のために寝てもらおう。
『お前たち。この赤子が寝てるからちょうどいい、聞いてくれ』
『我はこの赤子を育てることにした。しかもこやつは、我ら魔物を恐れない。それは今朝、この赤子を見たものなら分かるだろう』
『どうだろう。赤子をこの森で育てることに、反対するものはいるか?』
テジャの森を事実上統べる
それほど、絶対的王に君臨するヴァルガへの信頼は厚かった。
もちろん、魔物たちは賛成の声を次々とあげた。反対する者など誰一人としていなかった。
『そうか、礼を言うぞ。我が育てるが、他の魔物にも馴れさせておきたいから、みなも一緒に構ってあげてくれ、頼んだぞ』
これで魔物たちはこの赤子を喰らうことはない、とヴァルガは安心していた。争いごとはなくても魔物はみな気性が荒くてな、あのとき赤子が喰われてなくて正直驚いた。
そのおかげでこうしていられるのも、運が良かったからか…
スピピ…と、寝息を立てて寝ている赤子の頭を撫で、ヴァルガは翌日の予定を立てていた。人間の生活は人間に任せるのが一番だが、我がやると言ったんだ。完璧にやってやる。それに…赤子はまだヒト特有の醜さを知らない。
お前に近づく穢れは我が守ってやろう
―――――――――――――――
…ギュ、
なにかに触られている感覚で目を覚ました。見ると赤子が尻尾を握ったり撫でたりしていた。
ツヤがある黒い鱗に覆われた尻尾は、赤子にとっては物珍しかったのだろうか。興味津々に見つめている。そして、飽きるのが早い。楽しむ方法を変えたのか、持ち上げたりパシンと投げはじめた。
…が、所詮赤子の力。痛くも痒くもない。
「う~?」
『…お前は早起きなのだな。そして飽き性でもあるな』
『そうだ、今日は我と出かけるが、良いか?空を飛んで、人間の生活を見ようと思うのだが』
「っ!!」
赤子は動きを止め、こちらを向いた。目を見開いて、キラキラした瞳で見ている。空を飛ぶことを理解してるのか定かではないが、興味を示しているのが分かる。とりあえず、怖がられなくて良かった。
空を飛ぶなど滅多に出来ん経験だからな、今のうちにたくさん積ませるだけ積ませておこう。
親バカとはまさにこのこと。
昨日と同じ甘い実を擦ったものを食べさせ、朝ごはんを終えた。赤子はそれが気に入ったのか、入っていた器をひっくり返したりしていた。
いくら空を飛んでいたとしても、バレる可能性は十分にある。しっかり姿を消して行かねばな…。
『赤子、こっちに来い。これから空を飛ぶが、バレてはならん。そのため魔法をお前にもかけるから、じっとしておるのだぞ?』
ヴァルガが呼ぶと瞬時に反応し、驚くべき速さで近づいてくる赤子は、どこの誰が見ても感嘆ものだ。
スーパーハイハイと呼ぶべきだろうか。
とにかく速い。
『いい子じゃ。そのままじっとしておれよ…』
………フワッ
『…これで良い。では行くとするかの』
ヴァルガは片手で赤子を持ち、落とさないよう紐で赤子と腕を括りつけた。ブワッと突風が吹いたと思ったら、あっという間にヴァルガと赤子は上空まで移動していた。
―――――――――――――――
テジャの森から南に空を飛ぶこと数分、赤子は景色が流れていくのが楽しいのか、首を回して見ていた。
森に一番近い町に着き、上空から町を見ていた。活気に溢れ、そのさらに少し奥は王都が広がっている。食べ物や産業も発展していて、スラムなどの貧民街は無いように見えた。
この町は全体的に見ても、どの人間も暮らしやすいのだな、とヴァルガは思った。浮浪者や事件なども、多発しているようには見えない。
『これが、人間の生活だ。本来ならお前もこちら側だった』
『だが、森で生活なんてのも中々出来ないぞ?お前は実に運が良い。なんせ我が拾ったのだから』
―――この
食べ物、生活サイクル、服、必需品など…
『赤子、もう帰るが良いか?すぐには来られぬが、お前が大きくなったらまた来ると約束しよう』
『我も町はすきだ。たくさんの果物やキラキラした装飾品などもあるのだぞ』
「あい!」
赤子とまた来ると約束をし、テジャの森に帰った。疲れてたのか赤子は、行きの時とは反対に静かに寝ていた。
明日からもっとちゃんと世話をしなければ…と、再び気合いを入れたヴァルガであった。
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