伝説のドラゴンと暮らす少年 ~幼少期~
vivi
第1話 出会い
ザッ、ザッ、ザッ… と音を響かせているのは体長およそ6,7mの大きなドラゴン―名をヴァルガ。草木を踏み分けながら、食べれる実や動物を探し歩いているようだ。
そんなヴァルガは日々を退屈していた。特に何か起こる気配もなく、他の魔物達からは尊敬と、恐怖の眼差しを向けられているが本人曰く、―それは当たり前だ―と考えている。
おっと、話がそれた。
結局何が言いたいのかと言うと、退屈していても腹は減る。人間共がこの森―テジャの森―に来る訳もない。なぜこの森に来ないのかと考えても疲れるだけだ、と思考を放棄して食べれそうなものを探していたとき…
…ァ…オ……ギャア…
と、何処からか人間特有の声がしてきた。それもオトナと呼ばれる声ではなく、明らかに幼いヒトの声。今日は退屈しなさそうだと瞬時に判断し、その声がする方へ足を進めた。
……声がする方へ行ってみると、他の魔物たちも同様に気になったようで、ヒトを囲んで覗いていた。
ヒトというよりこれは赤子か。
幸いにも、誰も食べよう等とは考えておらず、何故ここに赤子がいるのかを、魔物たちみんな考えていた。
『何故ここにこんな赤子が…?』
『それに一体いつ、どこの誰が置いてったんだ?』
『この赤子、さっきは泣いていたのに我々が囲みだした瞬間、泣くのがピタリと止まったぞ』
『我々が怖くないのか?こいつは』
そこへ、ヴァルガが到着した。
ザワザワと騒いでいた魔物たちは、絶対的強者であるヴァルガが姿を現したことで、途端に口を閉じた。ざっと見ただけでも数十匹に囲まれているというのに、一斉に口を閉じるとは連携が取れていることが分かる。
すると赤子はキャッキャッと、声に出して笑いだした。ヴァルガがこの魔物の中で一番強いということが分かるから笑っているのか、囲んでいる魔物たちが一斉に口を閉じたことが面白くて笑っているのか。
確実に後者で笑ったのだろう。
しかし、周りの魔物たちからすれば、それは死である他ない。あの伝説と云われるヴァルガの前で、大胆にも声を上げて笑った赤子の命はない、と誰もが思った。
さらに、ヴァルガは目の前で笑う赤子に対して殺気を出した。ズズズ…と、纏う空気がガラリと変わった。これに耐えられなければ簡単に死ぬだろう。それほど人間にとってヴァルガの殺気は強く、たかが殺気といえど充分攻撃になる。
その殺気に当てられたのか、何匹かは失神、或いはその場から走り出した魔物もいた。
しかし、赤子は恐れる様子もなく、ただキャッキャッと相変わらず笑ってばかり。
『フッ。お前、中々やるじゃないか。…この森で生きたいか?』
そう言いながら、ヴァルガはこの子にこれからの時間を注いでも良いと考え自身の指を一本、赤子のお腹の上に軽く乗せ、撫でてみせた。…なんて脆く、小さい生き物かとヴァルガは感じた。
すると、軽い布に包まれながらも、赤子は自分を包んでる布の中から両手を差し出し、お腹の上に置かれた大きな指を両手で握り、またキャッキャと笑った。
よく見てみれば、少し生えているだろう白銀の髪は、太陽の光でキラキラして見える。開いた隙間から覗くのは深い碧色の瞳。幼いながらも伝説のドラゴンの殺気に耐え、ヴァルガや魔物たちにも全く恐れないこの赤子。
一体どこの誰が置いていったのか不思議だが、今はただこの子が生きたいと望んだのだから育ててみようではないか、と密かに心に決めたヴァルガであった。
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