第3話 名前は…
この赤子と出会ったのが一昨日。
赤子が何を食べ、どんな生活をするのかを知るために、魔法で姿を消し、赤子を抱きながら空から一緒に人間の生活とやらを見たのが昨日。
分かったことは、まず赤子には"名前"が必要らしい。正直どうでも良いと思っていたが、何故か魔物たちに説得されてしまい、名付けることに。
…お前たち、意外とこいつを気に入ってるようだな?
心の中で悪態をつき、どうしたもんかと頭を捻る。魔物たちはそもそも名がない。みな魔物の種類で呼ぶか、おい、お前、などと呼んでいる。考えてたらますます分からない。
…とりあえず名はあとだ。そうしよう。
うんうんと一人で頷くヴァルガはそうだ、と一言呟いた。
――― お前たち、これから言うことを覚えておけ。この赤子を育てるために、我はしばらくヒト型になる。それと、赤子が何を食べるのか、どんな生活をするのかを見てきたから、今から言うものをもってきてほしい。頼んだぞ ―――
ヴァルガともなればその場にいなくとも、テジャの森にいる魔物たち全てに、直接脳内に話しかけるなど造作もない。
魔物たちに頼み事をしたヴァルガは、早速ヒト型になるために、しっぽで遊んでいた赤子の傍から一旦離れる。途端に泣かれてしまったが、これはお前のためにやるのだぞ、と呟きながらヒト型になるために意識を集中し、頭の中でイメージする。
身長、体格、顔を考えなければ。髪は黒色でもいいが、爪はさすがに変えねばならんな。黒い爪など昨日見た人間の中にはいなかったからな…。
悶々と自身がなるヒト型をイメージし、ポンッと音が鳴ったと共に、ヴァルガは煙に包まれた。
煙の中から姿を現したのは、少し長い黒髪の男性が立っていた。身長は185cmとやや高いが、スラリとした手足。目鼻立ちは整っており、翡翠色の瞳がさらに色濃くなっていた。服装は昨日見てきたという、町の人が着るような白い長袖に黒の長ズボンと、シンプルだがどこか似合ってる。
一言で言えば、世の女性がほっとかない男性になったヴァルガ。
その一部始終をみてた赤子は、突然現れた男性にびっくりし、泣き始めた。だが、ヴァルガは焦らずゆっくりと赤子の元へ近づき抱え、一昨日と同じように指を一本、赤子のお腹に乗せ、撫でた。
『お前は今日から、我が育てる』
一昨日の感触を覚えていたのか、赤子はすぐに泣きやみ、両手でぎゅっと握り返した。
赤子を片手に抱くヴァルガは、傍から見れば立派な親に見えるだろう。
『そうだな…お前はルーク。ルーク・ヴァンガルと名付けよう、我が"息子"』
お腹を撫でながら、名前を告げると赤子…ルークは大層嬉しそうに、声を上げて笑った。
―――――――――――――――
ルークを片手に抱き甘い実以外にも、食べられる実などを教えてると太陽が真上近くになった。そういえば今朝から何も食べてないな、とヴァルガは思い出した。
ある程度我慢できるが、赤子のルークにとっては違う。食べることは命を繋ぐことなのだから、とお腹を空かせても、泣きもしないルークをヴァルガは心配した。
…そこに、タイミングよく今朝頼んでおいたミルクや哺乳瓶、毛布や換えの布などを置いている魔物たちがいた。
『すまぬ、助かる』
礼をして、頭を下げた魔物たちを確認したあと早速ミルクを哺乳瓶に入れ、ルークが飲みやすいよう抱く姿勢を変えて飲ませてみた。
これも、昨日行った町の者が行っていたことだ。
すると、ルークはゴクゴクと勢いよく飲み始め、あっという間にミルクを飲み干した。お腹が満たされて眠気がきたのか、瞼が閉じるのを必死に堪えている。
『すまぬ。気づいてやれなかった、やはりお腹が減っていたのだな…少しは泣いて主張しても良いのだぞ?』
―――だが、今後は我が先に気づいてやるからな
と小さく口にして、ヴァルガは手をルークの目元に優しく置き瞼を閉じさせた。すると、スピピ…と聞こえ、腕の中で寝始めたルークを、ヴァルガは優しい顔で見ていた。
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