第4話 テジャの森




 ルークはとても不思議な子だ。理由は色々あるが、一番の大きい理由は我々魔物を全く怖がらない、という点だろう。




 町の者達はみな口々に恐ろしい、殺されるなどとほざいているが、実際我々魔物たちはには人間共を襲わない。襲うとすれば、テジャの森に入ってきて、密猟やら放火やらしようとする者たち。それ以外は襲っていない。


 ほかの魔物たちは知らんがな。



 密猟とは魔物も含まれる。中には希少な魔物もいて、高価な素材が取れるらしい。そういった魔物を密猟から守るために襲う。正当防衛だ。

 正当防衛を繰り返しているうちに、噂がたったのではないかと予想する。



 ただの予想だ。



 ルークが寝始めてから、5時間ぐらいが経過しただろうか。その間、こいつは一度も目を覚まさない。寝つきが良いのか睡眠に貪欲なのか…。


 森は暗くなるのが早い。その証拠に辺りは薄暗く、太陽はもうとっくに落ちている。ヴァルガは魔物たちに頼んでいた毛布を敷き、その上にルークを寝かせていた。ルークの傍らに仰向けになり、これからのことを考えていた。



 まず、住処となる家が必要だ。今はまだ草木が開けてるところで平気そうだが、いつまでもそのままではダメだろう。雨風を防ぐ家、今よりもずっと成長したルークに、人間が食べる料理を食べさせたいと、普通の人間の生活をさせてやりたいと思っている。



 ···いつか"父"と呼んでくれる日を目指して









 ―――――――――――――――








 どうやら寝ていたようだな。



 いつの間にか夜が明け、陽の光が眩しくてヴァルガは目を覚ました。天気は快晴で、雲一つなく青空が広がっている。昨夜とは違い、薄暗かった森は陽の光でどこか神秘的な雰囲気だ。空気は澄んでいて、草木が風で揺れ動く音がよく聞こえる。

 魔物が住んでいなければこの森は、町の者たちが言う"恐ろしい森"とは誰も言わないだろう。



 朝ご飯を食べさせなければ…と横に目を向けると、毛布の上に寝かせたはずのルークの姿がない。





 『っ!?ルークっ!!』









 ガバッと身体を慌てて起こしたら、お腹からポテッと何かが転がったため、咄嗟にキャッチした。地面に当たらなかったため良かったが一体なんだと目線を下ろした。




『…ルーク、こんなところで寝てたのか?お前は』




 ヴァルガのお腹から転がった犯人は、いないと言われたルークだった。毛布から自力で出て、お腹の上に登ってきて寝てたのだろうか。遠くに行ってなくて良かったとひと安心したところで、ルークが目を覚ました。



「あぅ~あっ!」

『ん?どうしたルーク』



 胡座をし、その間にルークを置いた。何か言葉を言ってるのだが、あいにく赤子の言葉は全くわからない。そこでヴァルガは、早く言葉をマスターさせるために、言葉を毎日教えようと決めた。




『ルーク、朝は"おはよう"。基本の挨拶だ。お、は、よ、う』

「お~あ~う?」

『いい調子だぞ、ルーク。たくさん練習して早く話せるようになるといいな』




 そうだ、朝ご飯の準備をしなければ…と当初の目的を思い出しルークを毛布の上に置いて、ミルクを用意した。今度は勢いよく飲まないで、自分のペースで飲んでいる。やはり朝はしっかり食べなければ、とヴァルガはそこら辺にあった木の実を軽く摘んで、朝ご飯を終えた。



 ルークは飲み干した哺乳瓶をヴァルガに差し出し、ニコッと笑った。今回も満足したようで、早速遊べと言わんばかりに、ヴァルガに手を突き出した。


『ルーク。お前はおそらく魔力が高い。そもそもこのテジャの森自体魔力が高くてな、3日も森の中で過ごしたら、魔力が低い人間は酔った状態になるのだ』

「あぅ?」

『だがお前は3日たった今も、特に身体に異常は見られないようだしな』

「ぁい!」

『フッ、元気というわけか。それはおそらく、お前の身体は順応したのだ。魔力が高いこのテジャの森に』

「…?」

『今はまだわからなくてもよい。いずれまた教えよう』


 ルークの差し出された小さい手を、ヴァルガは優しく握りながら目線を合わせ、話をする。ルークは手を握られたことに嬉しくて、またキャッキャと笑った。







 ――――――――――――――――――







 さてと…人間と同じように生活するため、まずは家を作らねば。

 ヴァルガはルークを抱き、家を作るために歩き出した。



『ここは比較的森の出口と近いからな。人間どもに見つかるとめんどくさいから、少し離れた所に家を作ろう』



.



.




 歩いていたヴァルガは、ある一本の大きな大木の下で止まった。辺りは大木を中心に、草原が広がっており、ここなら充分生活していくことは可能な場所だ。

 見たところ大人5,6人が両手を広げて、やっと幹を一周できるかできないかくらいだ。それくらい太く、立派な大木があった。




『…ここはかつて、我が育った場所だ。ここなら知る者もほとんど居ない』






 ヴァルガは手をかざし、土、水、木を意識する。すると、かざした手の先から、光を放ちながら二人暮しには少し大きい2階建ての小屋が形成されている。主な素材は木材で、香りが自然の中に居るように感じられる。

 土と水からレンガのような素材をつくり、それを土台となる部分の間などに敷き詰めて、しっかりと固定されている。

 窓は外開きになっていて、風通しも充分良いだろう。2階は1階に比べ一回り小さいが、屋外が付いており、窓から外に出れば柵越しに1階の玄関が見える。




『よし、このくらいで良いか。ルーク、我らが住む家ができたぞ』

「ぅお~!」




 驚いてるようで、手足をバタつかせている。刹那、サワサワとやわらかく、温かい風がルークとヴァルガを包み込んだ。


 まるで歓迎されているようにも感じられる。




『ここが、お前と我の帰る場所だ。そしてこの森はお前の"故郷生まれの地"だ』






―――ルークはその日から、ヴァルガも驚く成長をしていった




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