第5話 ルークの成長
―――ルークと一緒に住み始めて3年の月日が流れた
赤子だったルークは4歳になり、言葉も話せるようになった。最初は舌が上手く回らなかったが、飲み込みが早いのかすぐに上達した。そして、予想していた通り、ルークは生まれつき魔力がとても高く、テジャの森にも順応していることが分かった。
元々、魔力を体内に宿す者はいないはずだった。
ルークが現れるまでは。
通常ならば教会に行き、神に祈りをして
しかし、魔力栓をなくしても、必ずしも全員が魔法を使えるようになる訳ではない。魔法を使える者は極僅かであり、その存在はとても珍しく重宝されている。
魔法を使う者が少ない理由として挙げられるのは、テジャの森に一番近い国、リージェン国に起こった過去の出来事が関係していた。
――――――この世界は元々、“魔法”というものは存在していなかった。魔物以外で魔法を使える生き物はいないはずだった。それが、一人の男によって変えられた。
何百年も昔、“リージェン”と呼ばれる国は各地で深刻な飢餓が相次いだ。大地は干上がり、雑草ひとつ生えない。雨は降らず、国中の者全員が死を覚悟した。当時の王も、雨が降らないことにはどうにも出来ず、諦めかけていた。
しかし、ある一人の青年が飢餓状態だったリージェン国を救った。その青年は、地面に向かって手をかざし、言葉の羅列を唱えた。すると、手をかざした先から果物が実っている一本の木がスルスルと生えた。さらに、両の腕を木に伸ばし手のひら同士を合わせ左右に腕を開くと、木の両隣から次々と同じ木が生え始めた。
青年の魔法で飢餓は治まり、数日後には雨も降り始めた。国中が、青年を称えた。そして青年は、褒美として王の一人娘と結婚し、のちに国王となり国を繁栄させていった――――――
それがリージェン国が発展し始めたきっかけであり、“魔法”というものが、新たに発見された年でもあった。それからというもの、魔法を使えるのは代々王族や貴族たちに多く、平民から魔法を使える者が出るというのは滅多にない。これまでに平民から魔法を使える者が現れたのは、片手で数えられる程だ。
.
.
『ルーク、今日も訓練をするぞ!先に外に出て準備して待っていろ』
「分かった!父さん!」
.
.
森で
言葉が理解できる年齢になった時、全てを話した。我の正体が本当は人間ではなく、
人間じゃないと言われたら、どう思うか想像はつく。化け物扱いし、最終的にはヒトがいるところを求めて、この森を出て町にいくだろう。それならそれで仕方ない。4歳の年齢ならば、まだヒトのところで誰か貰ってくれるだろう。
だがルークはそんな想像とは反対に、とても嬉しそうに言った。
「やったぁ!ドラゴンってかっこいいんでしょ?森のみんながいってたよ!とうさんは強くてかっこいいって!」
その時、初めて“父さん”と呼ばれた。
ルークを拾って良かった、あの日出会ったのがこの子で良かったと、色々な感情が込み上げて思わずルークを抱きしめた。
…後に魔物たちから知ったことだが、ルークは密かに練習していたらしい。堂々と“父さん”と言えるように。知った時はなんて愛らしいのかと、またルークを抱きしめた。
.
.
ルークはいつも訓練する時に使うバケツを持って、大きな大木の元へ駆けていった。今は魔力を自在に操るための訓練を日々行っている。方法は簡単、バケツに水を張りその水を手を使わずに操る。意外と簡単に思えるが、大人が音をあげるほど長く、根気がいる訓練だ。だが完璧に扱えるようになったら、周りとはかなり差をつけることができる。それ程までに魔力操作は一筋縄ではない。
さらに、一日に使える魔力も持ち主によって違い、魔力が多いほど、様々な魔法を同時に使えることが出来る。逆に、魔力が少ない者は一つの魔法を扱うのに限界だ。ルークはおそらく前者だ。魔法はまだ使えないが、4歳にして魔力が膨大なため、将来は優秀な魔法の使い手になるだろうと予想している。
大木の根元に腰を下ろし、水を張ったバケツに向かって魔力操作の訓練をしているルークを見ていた。3年とはいえ、白銀の髪はさらに輝きを増し、顔つきもほんの僅かだが大人に近づいている。子供の成長は早いものだ。
すると、訓練しているルークがシュンとした様子でこちらに歩いてきた。
「とうさん、上手くできない…」
それもそうだ。そもそも魔力操作の訓練は4歳の子供が行うものではない。通常ならば12歳くらいで魔力栓を無くしてもらい、その後知識を身につけてから15歳辺りで訓練を行うものだ。だが、ルークは決して諦める目はしておらず、やる気はあるようだ。
『水を自分の身体の一部だと考えるんだ。体内に駆け巡っていると意識すると、自然と水はお前が考える方向に動いたり、形を表したりする』
そんなに焦らなくともよい、と一言加えルークは再び訓練に戻った。
しかし結局その日は、食事の以外全ての時間を訓練に注いだが、水が動く気配は感じなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます