第12話

 ハンバーグを食べることにした。

「うまい! これ、結構クセになりそう」

「おいしい? でしょ! うちの母さんがおばあちゃんから受け継がれた絶品ハンバーグだよ!」

「うん、うまい。これしか言ってない」

 悠里は無言で食べている。

 わたしはその表情を見ると、嬉しくなる。

「悠里、よかったら、レシピのコピーをするよ? ハンバーグの」

 わたしはハンバーグのレシピをコピーして、彼に渡した。

「ん……サンキュ、俺、母方の実家に引っ越すことになった」

「え!? どこ?」

「市内だよ? 駅前のグランド・レガーレ。俺の住んでる家の三フロア上、めちゃくちゃ広い」

「いいね~、うちはずっとここなんだよね~」

 そのとき、悠里が笑っていた。

 とても嬉しそうな、照れくさそうな感じな表情を浮かべているの。

「ガヤガヤしてるけど、今日はなにかやってるの?」

「七夕祭り、今日は。午後六時までだね?」

 料理を教えた今日は七夕祭りだった。

 わたしはそのまま悠里と一緒にお祭りに行こうという話になった。





 富士通りには、露店が出ていて、カラフルな浴衣があちこちにいる。

 とても昔、雪華と母さんと一緒に浴衣を着て、七夕祭りに来ていたような気がする。

 二小……わたしたちが卒業した小学校の校庭には、七夕飾りが朝礼台にくくりつけられている。

 懐かしくなる。

「久しぶりに来た~」

「小夜はいつから来てないの? 七夕祭り」

「う~ん。小学校高学年になった頃以来、家事を手伝ってたりしていたからね。結構、忙しくなってて」

 悠里はなにかを決めたような顔をして、わたしの方を見つめていた。

「あのさ、小夜……」

「え? 悠里?」

 わたしは不思議に思っていたけど、悠里がなかなか言い出せずにいる。

「俺、ずっと――」

 そのときだった。

「小夜じゃん! 七夕祭り、来てたんだ!」

 聞きなれたその声の主は後ろにいた。

「み、みゃーちゃん!? 華乃かのともと来ているの?」

 みゃーちゃんと華乃、朋が来ていて、悠里のことを全然気にせず話していた。

「あれ? 櫻庭さくらば、こんなところでなにしてんの?」

 ようやく、気づいてたらしくて、三人が同じような質問をしている。

「え、図書館から帰る途中でたちばなにバッタリ会って、少しだけ七夕祭りに来ていたんだ。俺、引っ越しとかもあるから、大変だから、帰るな!」

 いきなり、悠里がダッシュで帰ることになり、わたしになにか言いかけてたのに、それをすっ飛ばして行っちゃったよ……。

「ちょ、ちょっと……悠里。どうしたのかな~?」

 みゃーちゃんが少し考えて、頭を抱えている。

 華乃と朋もなにか察してた。

 わたしは首をかしげているから、それを見てため息をついてる。




「みゃ、みゃーちゃん。どうした?」

「櫻庭のこと、好きなんでしょ?」

「うん。悠里のこと、ずっと好きだけどな~」

 みゃーちゃんが話を続けるために、二小の隣にある公園のベンチに座った。

「両片想い状態かもね、小夜と櫻庭。意外とピュアピュアな感じだもんな~、いま見た感じだと」

「そんなわけないよ! 悠里がそんなこと、ないよ!?」

 三人にそう言われると、意識しちゃうじゃん。

 せめて受験が終わってから、悠里に告白しようと決めた。

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