1学期

4月

第1話

 悠里ゆうりはわたしの隣の席で、本を読んでいた。

 黒の学ランをしっかりと着て、小説か参考書でも読んでるんだろうな。

 わたしが着ているのは紺の襟のないブレザーにジャンパースカート、白のワイシャツがわたしの中学の制服。男子は襟に、女子はブレザーの胸ポケットにバッジで校章とクラス章をつけている。


 三年B組の担任の国語の佐伯さえき芙美ふみ先生は、一年でも担任の先生になっていた。

 毎年クラス替えはするけど……三クラス百七人しかいないうちの学年は、必ず三年間同じクラスの人が出てくる。

 担任の先生は固定で、A組は数学の新垣にいがき智治ともはる先生(二年のときの担任)、C組は英語の宮野みやの桃子ももこ先生。

 副担任に理科の江嶋えじま昌宏まさひろ先生、社会の真野まの木葉このは先生がついている。

 それにわたしはとてもドキドキしていた。

 悠里が隣にいるし……出席番号順に廊下側から並んでるけど、しばらくこのまなのがラッキーだった。



「それでは自己紹介を始めたいと思います」

 登校初日に話し出したのは、自己紹介だった。

 うちの学校――二中は卒業した二小が約八割が進学して、二割ほど五小からも来るので、近隣の学区とは全校生徒は少ない。

 もちろん、二小も五小も中学受験をして、そのまま進学が別になる。

「自己紹介……何回もやるよね」

小夜さよ、何を言うの?」

 わたしは左隣の平津戸ひらつとみやびと話していた。

「みゃーちゃんは? どうするの?」

 雅は陸上部で、しかも東京都のアスリート育成プロジェクトの一員になった人なんだ。

 みんなからはみゃーちゃんと呼ばれている。

「それでは四隅の人は立って、じゃんけんをしてください!」

 四人が立ち上がり、じゃんけんをする。

「隼人~! 負けんじゃねーよ!」

亜果利あかり、がんばれー!」

楓徒ふうと、がんば」

 などと、四隅の人に応援という名の圧力をかけていく。

 じゃんけんをして、出席番号順の逆から行くことにした。

 わたしの名字はたちばなだから、少しだけ考えてないといけない。

「平津戸雅です。陸上部で走ってます!」

 そのままだんだんとわたしの番になっていく。

 自分の番になって、席をたつ。

「えっと、橘小夜です。好きなことは料理とか、裁縫で、家庭科が得意です。家庭科部に入っています、一年間よろしくお願いします」

 ホッとして席に座ると、悠里がこっちも見ている。

「よかったよ」

 わたしはうなずく。

 そのまま悠里の番になった。

櫻庭さくらば悠里です。好きなことは本を読むことです、一年間よろしくお願いします」

 簡潔に自己紹介をして、そのまま悠里は座った。










 下校して、わたしは家に帰ると、昼食を作り始めた。

「お姉ちゃん、ただいま~!!」

「あ、雪華ゆきか、おかえり。母さんは今日は遅くなるって」

「うん、お昼食べたら、友だちの家に行くね」

 一つ下の中二の雪華は冬生まれで、同じ字で雪華せっかから由来があるんだ。

 雪華は家事の手伝いをしてくれた。

 母さんは十代で未婚でわたしと雪華を生んで育ててくれている。でも父さんのことは知らない。


「ごちそうさま~! お姉ちゃん、行ってきます!」

「遅くならないでね!」

 少しだけ洗たくと食器を洗って、そのまま私服に着替えて近くのスーパーに買い物に行くことにした。

「小夜。どうした?」

「え! 悠里……どうしたの、そっちこそ」

 悠里とばったりと入口で会ったから、びっくりしてしまった。

「あ、本屋で、参考書買いに来た、そっちは?」

「え……夕食の買い出し、母さんが今日は遅くなるらしくて」

「そうか、おばさんは元気?」

「うん。元気にしてる」

 わたしは悠里と少しだけ話して、夕食の材料を買いに行くことにした。

 今日はカレーにしようかな?

 母さんのレシピで作る。

 それの材料と明日の朝食で使うジャムを買って、帰ろうとした。

「あれ? 悠里……どうしたの?」

「ちょうどよかった。重いだろう?」

「え、ありがとう……」

 わたしは悠里に荷物を半分渡した。

「悠里、また遊びに来れば?」

「あのな、学校ではその呼び方は恥ずかしいから、やめろよな」

「ハイハイ、わかってます。名字で呼ぶけどさ、雪華も勉強を教えてもらいたいみたいだし」

「雪華は成績優秀だもんな……俺と同じ高校とこにも行けそう」

「だよね~。天と地ほどの差がありすぎて、困る」

 悠里が志望校にしてるのは、都立東台高校……その辺でも一番の進学校で、東大や京大にも多数の合格者がいる。

 わたしは悠里とは真逆、都立だったら呉原くれはら高校か、私立だと佐久間さくま女子高校くらいしか合格ラインに達してるのはないと、言われたことがある。

「小夜。成績はこれからでも、がんばれる。お互いがんばろう」

 そう言ってくれると、心がホッとできる。


 わたしは悠里のそんなところが好きなんだ。

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