第132話 side愛羅、ありえないって……
あー、ヤバイ。緊張ヤバイんだけど……。コレはりょーまセンパイに気づかれるくらいあるかも。あんな鈍感センパイに。
書店に向かって足を進めている途中、アーシは人差し指で髪を巻きながらソワソワを隠そうとする。
とりあえず周りに『浮かれてる』とか思われんのはマジ勘弁。こんな恥ずいところ見られたくないし……。
でもこの髪の毛ぐるぐるって効果があるとは言えないんだよね。
一番効果あるのはスマホ弄って現実逃避なんだろうけど、歩きスマホはダメだし、りょーまセンパイに早く会いたいって気持ちもあるし、もっと言えば緊張で指先プルプルしてんだよね……。地面落としてもおかしくないって感じ。
ただ会いに行くだけなのにどんだけ張り詰めてんだっつーの……。
「はぁ……」
どうしようもなくなって空を仰いでみる。
青が一面に広がる空。ずっと見ていられるくらい綺麗だけどアーシにとっては皮肉られてる気がする。
だってアーシの心はふつーに雲かかってるし。雨降る寸前くらいの分厚いやつ。
どうしよホント。考えても思いやられるんだけど……。
えっと、一つだけ言わせてもらうけど、書店に行く時に毎回こうなってるわけじゃないからね?
ただ、あと3時間後くらいに初めてオトコを家にあげるからさ? それもりょーまセンパイを。
ママが居るって言っても期待してる部分あるし……距離縮められる絶好のチャンスだからアタックもしたいけど、こんなの初めてだから全然分かんないし。
こうなるくらいなら一回くらいオトコを家にあげて経験しとけば良かった…………ってのはダメな考えだね。反省反省。
そんなことしたらりょーまセンパイはガチ
『危機感を持て!』とか『リスクを考えろ!』って保護者みたいに。だからちゃんと撤回するし、実行には移さない。嫌われることだけは絶対ヤだし。
ってか、もし今の姿見られたらりょーまセンパイ絶対
『顔赤いけど……熱か?』って。
鏡見なくてもふつーに分かる。外は涼しいのに顔だけめっちゃ暑いから。想像するだけでこうなるってもう重症すぎ……。マ、そのセリフ言われた時点でアーシは文句言うけどね。
だってりょーまセンパイのせいでそうなってるんだし、心配してくれたとしてもアーシ側からしたら意地悪されてるってなるし。
もっと言えばしつこく心配してくるからホント調子狂う。
そうならないためにも書店着くまでには切り替えとかなきゃなんだよね。間挟んで身だしなみの確認も取るけど、コンビニで。
やっぱりりょーまセンパイの前じゃ綺麗なカッコ見せたいし。後はいつも通りにアーシが
ぶっちゃけコレしなかったらりょーまセンパイにすぐ
扱い方の経験値……って言うやつ? 残念だけどアーシはりょーまセンパイには敵わないからさ……。うん、アーシの気持ちがああな時点で負け確定してることだけど。
話してるだけでも、顔合わせただけでもちょー嬉しくなるとかアーシ自身チョロすぎ。
「……にしし」
でもそんな単純なアーシはキライじゃない。それになんかちょっと楽になった気もする。よくよく考えれば二日ぶりにりょーまセンパイと会えるんだし、どうせなら楽しまないと損だしね。
「よしっ、今日はどんなからかい方しよっかなー」
りょーまセンパイの反応を想像するだけで面白おかしくなってくる。うざったい顔するか面倒臭そうな顔か、嬉しそうな顔するか。
うん、絶対前二つだコレ。
でも、なんだかんだで付き合ってくれるのがりょーまセンパイのイイとこなんだよね。構って欲しい時にちゃんと構ってくれるし……ホントお礼言えるくらいに感謝してる。
コレずっと思ってたんだけど、アーシってかなり運イイよね?
りょーまセンパイを狙って関わりに行ったけど今じゃ連絡先交換も出来てるし、関わってからはもっとイイ人なんだって気付いたし、今はフリーでカノジョ持ちじゃないし。
マ、実際は油断の『ゆ』の文字も無いわけだけど。アーシの見立てじゃりょーまセンパイを狙ってる
モデルさんみたいに綺麗だった元カノと、ちっちゃ可愛くてクールなラブコメ漫画家のでびるちゃん。
元カノの方はアーシに宣戦布告してきたのを今でも覚えてる。
『自分勝手だけどね、あんなに優しいりょー君は簡単に諦められないよ……。愛羅ちゃんに渡すのは今日だけなんだから』って。
あの時の目は本気じゃなければ出来っこない。
でびるちゃんはフォロワーの多いTwitterのアカウント使ってアーシに牽制してきたし。
仕事用のアカウントでフォロワー数0のりょーまセンパイをフォローするとかあからさま過ぎ。ふつーはリアルアカウントでフォローするもんだし……。
元カノはふわふわした顔してて、でびるちゃんは大人しそうな顔してて……でもどっちもどっちで攻撃的な性格ってシャレになんないって。
他のオンナに渡したくないって気持ちは分かるけど、年下のアーシに譲ってくれてもイイ思う。そしたらアーシが独占出来るし不安とかなくなるし……。
マ、しょーじきでびるちゃんは敵として見る必要はないかもだけど。
相手にならないってわけじゃなくてアーシの方が完全有利な立場だから。
あんなに有名な漫画家が近くにいるなんて出来すぎたことは絶対ないし、遠くに住んでてりょーまセンパイになかなか会えないからこその牽制方法なんだろうし。
会える環境に居たらお
環境ばかりはどうしようもないし幸運に思うしかない。だからアーシが一番に警戒するのは元カノってなるわけだけど……っと、コンビニ着いた。
マ、難しい話は今日が終わってからでいっか。どうせすぐに解決する問題じゃないし。
とりあえず身だしなみ確認に全力ぶつけないとアレだしね。
そうしてばっちしのカッコに整えたアーシは数分かけて書店にたどり着く。
入り口ドアを潜っていつも通りの挨拶をする。
「てんちょーさんお疲れさまー!」
「あ、愛羅ちゃん……。お、お疲れ様……」
「……ん?」
この時、アーシはてんちょーに違和感を覚えた。笑顔が引き攣ってるし、声がぎこちないし、ぎょっとしてる。
なんか、『このタイミングで来ちゃったのー!?』って言うのを隠してる感じがする。
「何かあったの? てんちょーさん」
「い、いや……そう言うわけじゃなくってね……」
てんちょーは普段から優しい顔してるからこんな時はホントに分かりやすい。嫌な予感するんだけど……。
「もしかしてりょーまセンパイ休み!?」
「う、ううん。ちゃんと出勤してくれてるよ」
「なら良かったー。じゃありょーまセンパイ探してくるねっ。いつもアーシのワガママありがと」
「い、いいえぇ……」
てんちょーには引っかかったけどりょーまセンパイが出勤してたら何も問題はないからイイ。
この時間だったら多分漫画コーナーにいるかなー?
アーシはそんな軽い気持ちでりょーまセンパイを探す。
でも……こんな心持ちは間違ってた。てんちょーがなんで罰の悪い顔してたのか、次の瞬間に分かった。
「は?」
素っ頓狂な声が出た。
「えっ、ちょ、は?」
全く状況に付いていけなかった。頭が真っ白になった。
だって……だってアーシの目の前に居たんだもん。
探してたりょーまセンパイ……と、その腕をちっちゃな手で掴んでるでびるちゃん。この二人が見つめ合って話してるところを……。
なっ、なにそれ。でびるちゃんってこの近く……住んでるわけ!?
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