第129話 愛羅中心の会話

「なんか最近のアイラって変わったよなぁ。垢が抜けたって言うかなんて言うか」

「あー、それは僕も思ってた」

 高校の休み時間。

 一輝の親友である出席番号2番の翔二と、出席番号3番の三郎はクラスメイトである愛羅を中心にした会話をしていた


学生らしい生活、、、、、、、を送ってるって感じだよね。授業を真面目に受けて、休み時間にはハッチャけるって感じで」

「あの切り替え凄いよなぁ。休み時間はあんなに騒がしいのに授業中になれば無言になってガリッガリノートにメモ取るし」

「話しかけてくんなオーラが凄いよね。そんなところは流石だけど」

「今はあんななのになー」


 二人して愛羅のいる方に顔を向ければ——

「——それでさっ、マジで大変って言うか!」

 机の上を椅子にしている愛羅は数人のクラスメイトと談笑している。

 その中にクラスの地味子がいるが、仲間外れにすることもなくしっかりと輪に入れている。誰隔てなく接している様子。

 話の内容はここまで聞き取れないが、周りに笑顔がたくさん浮かんでいる分、楽しい時間を過ごしているのだろう。


「頭も良くてあのコミュ力であの性格であの顔。アイラが羨ましいぜ」

「努力してる部分が結構あると思うけどね? 何にもしてないってわけじゃないって」

「それは分かってるけどなぁ。だが容姿は恵まれてんだろ?」

「……普通に可愛い」

 お世辞抜きの本気トーン。


「それを踏まえて言うけど……三郎は見たか? 愛羅の引用ツイート。ゲーセンで撮ってたやつ」

 引用リツイートとはツイッターのワードで、他のユーザーのツイートにコメントを付けてツイートできる機能のこと。

 もっと分かりやすく? 言えば、とある者が作ったブログに自身の感想を添えてwebに公開するようなもの。


「見た見た。里奈リナっちが愛羅を盗撮してたやつだよね? メロンパン一個奢れってコメント付きの」

「そうそう。ナマゾーのストラップ持って笑顔で写ってる写真。あの写真見た他校の友達からこの人紹介してぇ〜とか言われるんだぜオレ。……流石に無視してるけど」

「僕はフォローされてるだけで驚かれるし羨ましがられるよ。DMでフォローしてくれるようにお願いされたりもしばしば」

「ひー、アイラの影響力ヤバすぎ」

 芸能人のような扱いを受けている愛羅だが、当の本人はここまで声がかかっていることを知らない。教えたとしても『あっそ』だなんて簡素な反応をするだけだろう。

 この高校の学園祭を機に皆が知り始めていることがあるのだから。


「あの写真見て気づいたんだけど、アイラに八重歯があること三郎は知ってたか? 一年も関わってんのにオレ全然気づかなかったんだが」

「僕も知らなかったよ。多分親しい人にしか見せないんだと思うよ。友達よりももっと親密な人」

「……あんな笑顔見せられたら男は秒で落ちるよなぁ」

「それは早すぎない? 三日でしょ」

「それでもめちゃ早いけどな?」

「だね」

「おう」

 超高速の言い返しをする二人。長きに渡って関係を続けてなければ出来ないことだろう。仲の良さが垣間見える。


「……まぁそれでなんだけど、あのナマゾーって好きな人に渡すやつらしいぜ?」

「里奈っちのリプ欄見て知ったよ。これでもういろいろ分かるよね。あの笑顔を見せてる人=ストラップを渡そうとした人が誰かってさ」

「……イッキには残念だが、やっぱリョーマ先輩だよなぁ」

「違いない」


 好きな人には別の好きな人がいる。これが片想いをした時に一番辛いことだろう。そしてこれが恋の難しさでもある。


「ぶっちゃけあの先輩マジでやばいと思うんだけど。オレ男としてめっちゃ尊敬してるし」

「学園祭の時に見たけど、ザ・男って感じだったよね。あの現場も解決、カッコいいって思わない人はいないよ」

「流石はアイラだよなぁ。あんな先輩にまで手にかけられるんだから」

「ナマゾーを渡すのが愛羅だから逆……じゃない? 愛羅が龍馬先輩に手をかけてる」

「そうだったそうだった。言葉間違えた」


 後頭部を叩きながら大袈裟なリアクションをする翔二を見て笑う三郎。

 そんな二人が張本人である愛羅に視線を送った矢先である。

 偶然にも愛羅に気づかれる。瞬間、ニヤッと悪戯な顔を浮かべて。


「ちょ、みんな見てー! あの二人がいらやしい目で見てきてるんだけど! 多分みんなの脚見てるって」

「ほえっ!?」

「うっわ、本当だ! サイテー!」

「ちょっ、違うからねっ!?」


 愛羅を囲む友達を利用したタチの悪いからかい。

 誤解だ! と狼狽しながら必死に弁解を図る三郎だが、『任せろ』と翔二が止める。——ニンマリを返して答えるのだ。


「うっせリョーマ先輩、、、、、、。脚なんて見てねぇわ!」

「は、はぁー!? それ今全く関係ないっしょ! て、適当なこと言うなしっ! ふざけんなし!」

「はいはいリョーマ先輩に報告ーっと。めっちゃ悪口アンド愛羅がいじめてきました入りまーす」

 この名前を出しただけで有利に立ち回れることを翔二は理解している。好きな人がバレた時に起こる一番厄介な点だ。


「ちょ、えっ? 連絡先持ってんの!? や、やめてってばそんなの!」

「ならばオレたちが見てないことの説得をするんだ。実際に見てたわけじゃないしな」

「はい……。ご、ごめん。みんな今の嘘……」

「これだから恋する乙女は」

「べ、別にそんなんじゃないしっ!」

「はいはいそれで結構でーす!」

「な、なんなのアイツ!」


 この攻防戦は翔二に軍配が上がる。いや、この話題を出したなら誰にだって愛羅に勝つことができるだろう。


「へへっ、オレの勝チだぜ」

「さ、流石翔二……。もう龍馬先輩と連絡先交換してたなんて……」

「今の嘘だけどな! 後で謝り行くぞ!」

「嘘なの!?」

「交換できるわけないだろ! その機会すらないわ!」

「はははっ、そう言われたらその通りだ」

 休み時間終了まで残り2分。濃密な時間を過ごす二人にもう1人の人物が入ってくる。


「お、結構盛り上がってんじゃん!」

「ただいまーイッキ! トイレ長かったな!?」

「それ言うならおかえりな……ってんなデリケートなこと言うんじゃねえ!」

「切れ痔だからすぐ切れるよなぁイッキは」

「それも違ぇよ!」

「あはははっ!」

 出席番号1番の一輝が交わりいつものメンバー、略称いつメンが誕生する。


「それで……なんの話してたんだ? いや、絶対愛羅の話だ」

「正解」

「出たよ俺をいじめる話が! おら、来るなら来い!」

 自虐的に言う一輝だが暗い表情は浮かんでいない。いじられネタとして公認している部分があり、気持ちの整理がしっかりと出来ているのだ。


「じゃあ聞かせてもらおうかな」

「なんだよ三郎」

「最近の一輝って愛羅と関わってないけど……。諦めたの? 一輝ならどんな壁あってもチャレンジしそうだけど……」

「それは確かに」

「馬鹿、今は距離を置く時期なんだよーだ。恋路を邪魔するほど俺はクズになりたくねぇの!」


 子どもっぽい返しを見せるだが、一輝も心が大人になりつつあった。

 龍馬を見習って。そしてあの反省を生かして。



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