第128話 愛羅と方言女子と昨晩の龍馬
龍馬と雪也が話す同時刻。
「愛羅ちんの机、どんどん妖怪が増えちょるね」
「妖怪言うなしっ! 立派なダンゴムシと白髭生やしたナマズじゃん」
高校の教室で方言女子である
愛羅の机に置いてあるのは相変わらずのダンゴムシと、S型のナマゾーが付けられたペンケース。つまり二つの生物が机の上に降臨しているわけである。
「それ勉強する時とか邪魔になったりせんと? ナマゾーも加わっちょるし」
「ぶっちゃけめっちゃ邪魔」
「邪魔なんかいっ!」
「……でも、コレがあった方が集中出来るし、形とかは気持ち悪いけどマイアイテムなんだよね。授業の書き込みも漏れなくやれてるし」
にひっ、と表情を崩す愛羅はさらに言葉を重ねる。
「これくれた人ってちょーが付くくらいに真面目でイジワルでもあってさ。アーシが眠ろうとしたら怒ってくるような気がしたりでホント迷惑だってね」
「って文句言いながらてげ大事にしてるけんねえ、愛羅ちんは。あのカッコ良いお兄さん……龍馬先輩からのプレゼントやから当然やっちゃろうけど」
「べっ、別にりょーまセンパイだからってわけじゃないって。プレゼントされたものは全部大事にするし」
口ごもり、まばたきの回数を増やし、落ち着きのなくなる愛羅の反応は恋する乙女の反応。
プレゼントの中でも龍馬からもらった物は特に大事に扱っていることは目に見えている。
「愛羅ちんって龍馬先輩のお話する時だけ目の色変わっちょるかいね? もう隠す気がないってくらいにあからさまよ」
「それ里奈の勘違いだって。アーシがそんな純粋な反応するわけないじゃん」
溢れ出てくる感情を抑えるように机の下で両指を絡ませ、さらには足の指までも力が入っている。純粋な反応は全身に現れている。
「素直じゃないなあー本当。お胸大きいくせに」
「それ関係ないし、いきなりぶち込んでくる話題じゃないっしょ……。ってか里奈も大きいじゃん」
「調子いい時を除いたらリナは平均サイズやっちゃけどぉ……。通常から平均越えの愛羅ちんが言うのは嫌味ー」
「はいはい」
龍馬の口調が移ったような流し方を見せる愛羅。
「里奈ってどうしてそんなに胸のサイズに執着あんの? 対して問題ないってのがアーシの意見なんだけど。何回も胸見られるの不快だし」
「それでも好きな男子とかイチコロ出来るって聞くっちゃもん! そうやろう!?」
「そうやろうって言われても相手によるって。アーシの場合はぜんっぜん使えないし」
「え゛!? そうやと!?」
「多分だけど
「ほ、ほえ……? なんでそう思ったと?」
胸の話題に意識を引っ張られているのか愛羅は気付く素ぶりすらない。
今、自ら好きな相手を暴露してしまったことに。そして、さらなる情報を求めて里奈が泳がせる行動を取っていることに。
「りょーまセンパイって書店でバイトしててさ? 昨日シフトに入ってたからわざと制服を着崩してりょーまセンパイに会いに行ったわけ」
「うんうん。女の武器を使ったっちゃね!?」
「そ、でも予想外のコト起きてさ。りょーまセンパイがアーシの胸見た時間は0.4秒とかそんなんだったわけ。つまり一瞬」
勇気出したんだからもっと反応してくれても良かったじゃん。なんて物言いたげの愛羅。
「い、1秒もないと!? 二度見とかしてこなかったと!? 愛羅ちんのお胸で!?」
「しかも胸元のボタンはちゃんと閉めろとか真顔でガチ注意してきたわけ。ふつーは胸見て照れながら注意とかでしょ。JKに性欲出してくれなきゃアーシの攻撃が意味ないじゃんってさ」
「……うーん」
「も、もしかしてアーシの胸が汚いとかあんのかな……」
「愛羅ちんのツヤ肌お胸が汚いとかありえん! それが汚いとかなったらみんな希望持てんくなるて!」
一瞬のうちに表情を暗くさせる愛羅に強く否定する里奈。実際には通りである。龍馬だって一人の男。綺麗な愛羅の体に反応しないなんてことはない。
では何故————それは龍馬が愛羅と交わした契約がお兄ちゃんになると言うものだから。
複雑な家庭環境で育った龍馬は、姉のカヤから愛情を受けてここまで成長した。立派なカヤの姿を見続けたからこそ戒められる。
愛羅の体を気遣うだけでなくトラブルの可能性を伝え、なおかつ不快に思われない一番正しい行動を。
「じゃあなんで里奈は迷ってたわけ……? さっき『うーん』ってなってたっしょ」
「あー、それは愛羅ちんのことじゃなくて、龍馬先輩ならそんな行動してもおかしくないなーって思ったとよね。リナが学園祭で龍馬先輩を見たから言えるっちゃけど」
主観を用いる里奈だが、次の言葉には否定しようもない信憑性がある発言。
「あのスペックやけん、今まで女子から狙われてたことがあると思うんよね龍馬先輩。だからその手の攻撃は受け慣れてるっちゃないかって」
「……」
「もっと言えば注意って名のカウンターを食らわすところまでが龍馬先輩の技だったりするっちゃろかいなって」
予想を交えたからこその大袈裟な評価。
カヤならまだしも龍馬にこんな芸当はできない。しかし、この流れでは愛羅は信じきってしまう。
「え、ちょウソマジそれ……」
「正直、心動かされたっちゃないと? てげ真剣に注意してくれたら。お胸見なかったってことは心配って気持ちが勝ってたってことやし」
「……」
愛羅は思い返す。昨日、書店した龍馬とのやり取りを。
「龍馬先輩がてげ好きなんやねえ、愛羅ちんは」
「あーーっ! だ、だだだから好きってわけじゃないって!」
頭上に浮かんでいたやり取り真っ最中の吹き出しを両手で払った愛羅は、顔を真っ赤にする。
「へー、お胸使って
「ぅ……」
「愛羅ちんの様子を見るに近々龍馬先輩と良いことあるっちゃろうからねぇ。デートかな? デートかな?」
「も、もうヤメて……って……」
吹き出しを消した代わりに、今度は頭上に白い湯気が上がっていく。
「ゲーセンで取ったナマゾーの効果に期待やね、愛羅ちん? 昨日絶対、龍馬先輩に渡しに行ったっちゃろうしーー!」
「……ヤ」
「ん? ヤ?」
「ヤメてって言っちょるやろッ!」
「あははははっ! リナの言葉移ったあああ。あっ、逃げ——」
愛羅をからかいすぎたことにより始まった鬼ごっこ。
教室から廊下を抜け追い里奈をかけ回す愛羅。この二人に待っているのは『廊下を走るな!』と言う担任からのお説教である。
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