第127話 龍馬を狙う者
「な、なんか女子力上がってねぇか龍馬。どんな心境の変化だよ」
翌日の大学、一限が終わった後である。
雪也は
「心境の変化もなにも俺はいつも通りだけど……。女子力上がってる要素が俺にあるのか?」
「あるから言ってんだろー! 二つも出てきたら流石になぁ」
「ふ、二つ……?」
「まずはそれだそれ。いかにも女子受けしそうな黄色のシャーペン」
「あぁ……」
雪也が指差す方向にあるのは龍馬が一限から使っていた黄色のシャープペンシル。姫乃と交換した文房具である。
「地味色使ってた龍馬がいきなり派手なシャーペンに変えたらなぁ。しかもそれキャラ入りだし」
「もしかして変……?」
「別に変ってわけじゃねぇけど、龍馬が根暗モードで使ってる分かなり浮いてる。ワックスつけてメガネも外してたら似合ってるんだろうが」
「そ、それ言われたらなかなか使いづらくなるんだけど……」
イメチェンをすれば服の合わせ方だって変わってくる。
前髪で瞳が半分以上隠れ、メガネをつけた今の龍馬は暗めの印象で捉えられているだろう。その容姿でキャラ入りの派手な黄色のシャーペン。
雪也の『浮いてる』発言に間違いはない。
「それどこで買ったんだ? その系統見たら他にどんなのがあるか気になるんだが」
「ごめん、買った場所はわからないんだよね」
「おいおい、そこではぐらかしてくるのは無しだって」
「そう言うわけじゃなくってこのシャーペンって貰い物だからさ、ちょっと話の流れで文房具を交換しようって言われて」
「促したのは相手から……か。そのシャーペン的に結構女子ってるやつから言われたんじゃねぇか?」
「正解……」
このシャーペンの元の持ち主は姫乃であり、姫乃の家に訪れたこともある龍馬だからこそ同意以外に答えはない。
「はー、モテんねぇ龍馬は!」
「そ、そんなんじゃないって。ただの話の流れでだから」
「そうかぁ? 文房具交換ってのは嫌いなヤツとはしねぇだろ。手で触れてるもんなんだし。……にしてもシャーペンを交換した相手側はかなり太っ腹だな。それ普通に高ぇやつだぜ? 値段で言えば1500円くらいするし」
「んえっ、1500円も!? 嘘だろ!?」
「そのメーカーは安くねぇし、キャラクターもんは普通のより高くなるからな」
「そう……なんだな。でもよくよく考えればそうだよな……」
「その反応はもしかしなくてもやっちまったな? 龍馬が交換したシャーペン750円くらいだろ」
交換をする場合は同じ値段で……というものがほとんどだろう。
龍馬の消沈した様子から1500円の半額を予想した雪也だが、これで正解ならマシだった。
「俺のは600円くらいだよ……」
「600円!? は、半額以下ってガハハハッ」
「笑うなって。俺はそれどころじゃないんだがら」
「まー、随分と得したんだからラッキーじゃねぇか。相手も了承したんだろうしよ」
「それでも罪悪感の方が大きいんだよ。『おい嘘だろお前』とか思われてたら嫌だし……。いや、そんな性格じゃないとは思うけど」
姫乃がそんなセリフを言ったものなら龍馬の心はズタボロになるだろう。優しい性格を持つ相手から本気の文句を言われるほど辛いものはない。
「そんなこと言っても過ぎたことなんだから仕方ねぇって。とりあえず大切に使ってやれよ? 文房具交換ってのは親しい仲にあるからこそするんだろうし」
「うん、そうすることにするよ」
大切に扱う。これが姫乃が一番喜ぶ行動に違いない。
「まー、このシャーペンがとりあえず女子力うんぬんの1個目な。2個目はコレ。意味分からねぇけどなんか女子受けしそうなストラップだ」
次の本題。
龍馬のペンケースを手繰り寄せた雪也はチャックに結ばれたナマゾーを突いた。これは昨日愛羅からプレゼントされたストラップである。
「こんなゆるキャラ的なやつは龍馬の趣味じゃねぇだろ? コンセプトも謎に満ちてるし」
「た、確かにそうなんだけど……これも友達からもらった物なんだよね。だからどんな物でも嬉しいって言うか」
「その気持ちは分かるが、コレは悪戯されたと言ってもおかしくねぇレベルだって」
「じ、冗談でもそんなこと言わないでくれよ」
悪意がないにしても愛羅の性格を考えれば十分に考えられる話ではある。引き攣った笑みを浮かべながらなんとか言葉を返す龍馬。
「一応、このストラップには名前があってさ。ナマゾーって言うんだけど」
「ん? ナマゾー? ナマゾー……って、あーコイツがそうなのか!」
なぜかテンションの上がった声になる雪也。モヤモヤが解決したように瞳には一段と光がこもっている。
「ど、どうしたんだ?」
「悪ぃ悪ぃ、オレの彼女が欲しいって言ってたんだよ。ナマゾーってストラップのことを」
「そ、そんなに人気なのかこれ……。お世辞にも可愛いとは言えないぐらいにあるけど……」
「なんかコイツの形によっていろんな意味があるらしいんだよな。その中の一つがクソ人気らしいんだが、龍馬が持ってるコイツがそうだぜ? 背中がS型になってるし」
「どの店舗にあるのかはわからないけど、ゲーセンの中にあったらしいよ。あげないからな」
息継ぎをすることもなく早口で言う龍馬。貰い物を大事にする龍馬だからこそ早めに釘を打つ。
今の話の流れからは『ちょうだい』などのセリフを言われてもおかしくないのだから。
「ハハッ、流石に貰いもんに狙い付けねぇって! 逆にあげるとか言い出したら龍馬をぶん殴ってるぜ? 気持ち考えろってな」
「その時はよろしく頼むよ。気持ち踏みにじるようなことするのはしたくないからさ」
「相変わらず真面目だなぁおい。まーそんな龍馬がオレは好きなんだがな」
「すまん、俺にそっちの趣味はない」
「オレもだわ!」
こんなやり取りは二人のノリ的なものである。
「でもなんだったっけなぁこのS型ナマゾーの意味。一番人気だし龍馬も気にならないか?」
「他のラインナップもあるって聞いたし、正直気になる。ちょっとスマホで調べてみるよ」
「あー、良いって。言い出しっぺはオレだから」
スマホを取り出そうとする龍馬を制し、床に置いたカバンからスマホを手に取る雪也は手慣れたフリック操作で文字を打ち込み検索をかける。
その検索はすぐに引っかかった。
「出てきたぜ。『人気急上昇中、ナマゾー各種調べてみた』だってよ」
「お、どれどれ」
椅子から立ち上がり雪也のスマホを覗き込む龍馬。二人でまとめられたブログを流し見ていく。
「えっと、C型のナマゾーは健康運が向上……ってなんか神社参りしてるみたいな感じだな。ってかこの要素なけりゃ人気は出なかっただろ」
「ひ、否定はしないけど」
「U型のナマゾーは金運」
「本当にいろいろな種類があるんだな……」
「ちょ、先にS字のナマゾー調べても良いか?」
「大丈夫。俺も見たかったし」
「サンキュ」
律儀に断りを入れた雪也はページを下にスライドさせていく。そして指を止めた画面にあるのは『一番人気』との見出しが付けられたS字のナマゾー。
「えっと、S字のナマゾーは恋愛運。このナマゾーを受け取った者と渡した者には恋愛運が向上……二人の距離が縮まるだってよ」
「ほ、ほぅ。距離が縮まる……」
「……」
「……」
雪也の彼女がS型のナマゾーを欲しい意味を理解する龍馬。そして龍馬と距離を縮めたい目的で渡されたことも理解する雪也。
二人の間になんとも言えない空気が充満する。
静寂が4秒ほど続き、先に口を開いたのは雪也。それも、冗談にならないような一言。
「オレ一つ思うんだけど、お前って……この
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