第122話 相談と……気になる人を
「雪也、俺はどうしたらいいと思う……? 本当に悩んでて……」
早朝の大学。講義のある教室で寝不足の龍馬は親友の雪也に相談していた。
それは一人では答えを見つけられない悩み。
代行を続けるために、そしてトラブルを大きくしないために依頼者とどう向き合っていくのか……だ。
『答えが見つかったらもう好きにしていいんじゃない? もう個人のことじゃなくなったからアタシはどうしようも出来なくなったよ』
姉のカヤから突き放されたように言われたのはこのバイトを無断でしていたから。それでも心配の気持ちがあるからしっかりと注意をしてくれた。
時間を割いて話をしてくれた以上、これからどうしていくのかその方針を伝えるのが筋である。
「な、なんかすまん。オレが勧めたばっかりに」
「いや、雪也に非はないよ。このバイトに不満があるわけじゃないしさ。ただコレがどうしても解決しなくて……」
「ひ、一つだけ聞いていいか……龍馬」
「ん?」
「龍馬に彼女はいないのか?」
雪也はさり気なく切り込んだ。彼女である風子が言っていた『ロリリンの彼氏は龍馬君』が本当なのかどうかを。
誤解かそうじゃないかでアドバイスも変わる。どうしても聞いておかなければならないこと。
「俺に彼女がいたらこのバイトは辞めてるよ。やっぱりこんなことしてたら嫌な気持ちになるだろうし……」
「ふぅん。そうか」
「もしかして俺に彼女がいると思ってた?」
「可能性はゼロじゃないしな」
この瞬間、雪也は一つの仮定を作っていた。
彼女である風子が付き合っていると誤解していたのは、その代行現場を見てしまったから。その結果、恋人の雰囲気を壊さないように付いた嘘なのだ……と。
「まー、それで話を戻すが龍馬の姉ちゃんが言ったことに間違いはないわな。指名されたなら特に」
「ああ……」
「とりあえずは早く気付けて良かったじゃねぇか。龍馬の姉ちゃんが何も言わなかったら本当に取り返しのつかない事になってたかもだぜ? 最悪、恨みを買ったお前が包丁で刺されてもおかしくない」
「ぶ、物騒なこと言うなよ。しかもこれ何回かしてる会話だし」
「女の恨みはそんなもんだぜ? オレの彼女も怖ぇし。浮気しようもんならオレは墓地行きだ。……で、でもそんぐらいがオレには良いんだがな? オレが好きなんだろうからそうするわけで……?」
「あの話題からいきなり惚気ないでくれよ……。切り替えしづらいんだって」
「ハハッ、わりぃわりぃ」
「そ、それでこの件……雪也ならどうする?」
ここでようやく本題に移る龍馬の双眸には期待の光が宿っていた。恋愛経験のある雪也にならアドバイスを貰えるだろうと信じていた。さらに言えば龍馬が頼れる相手は
「ぶっちゃけオレなら答えは一つだな」
「えっ?」
「告白されても
「なっ!?」
「もし依頼が減ったとしても会社がすぐに新規客を入れてくれるだろうし何も問題はねぇよ。告白を断られて逆上してくるようなら関わらない方が身のためだしな」
雪也のアドバイスはかなりザックリしたものだが、大きなトラブルを回避するための方法でもある……が、龍馬には躊躇う理由がある。
「そ、そうだけど告白を断るって……な、なんか……。お世話になってる人でもあるし……」
「まさか傷付けたくないとでも言うつもりか?」
「…………」
沈黙は肯定。
「ハァ−、これだからお前は……。それがトラブルを生む原因なんだよ。傷付けたくないからって先延ばしか? そうなったら結果、数人の女が同じ状況。待ってるのは取り返しのつかない修羅場だ」
「そ、そうだよ……な」
「今のバイトを続けるなら相手を傷つける覚悟をしなきゃダメだろ」
「だな……」
我慢する性格を変えろ。なんて元カノの花音に言っていた龍馬だが、そんな龍馬も変えなければいけないことがある。
「オレは龍馬みたく優しくねぇし、お人好しでもねぇからな。振った相手が傷付くーなんて考えはしない。その代わり気持ちを伝えてくれてありがとうってのを伝える。恋なんてそんなもんだ。全員が報われるなんてのは物語の世界だけだ」
「……」
当たり前の現実を叩きつける雪也だが、こればかりはどうしようもないこと。
「さっきも言ったが龍馬が一番やっちゃいけねぇのは告白を先延ばしにすることだろうさ。あのバイトをしてるんだから特に」
「……ああ」
「そんな深刻そうな顔すんなよな。振ったからってリョウマが悪いことしたわけじゃねぇし、一度振られただけで諦めるようなら所詮それまでだろ? トラブルの種が一つ減ったってことで前向きに捉えるべきだと思うが」
性格は人それぞれだ。雪也みたいに強く出れる者もいればそうじゃない者もいる。残念ながら龍馬は後者。頭では理解していても行動に移すことはなかなか出来ない。
「オレが思うに、龍馬の姉ちゃんも同じようなことを伝えたかったんじゃねぇの? 姉ちゃんの方がリョウマを理解してるだろうし、そんな気持ちでやるんじゃねぇよとか思っててもおかしくないぜ?」
「……今の話を聞いたら、そんな気しかしないよ」
雪也の言う通り、カヤは一番に龍馬のことを知っている。
そしてあの話し合いの時、凄まじい怒りが眉の辺りに這っていた。トラブルが起きると確信していたならあの憤りは当然。
申し訳ないことをした……と、龍馬が過去を顧みていたその時、
「……あ、すまん龍馬。一つ訂正するかもだ」
雪也が唐突に謝ってくる。
「な、なにが?」
「オレさっき告白を全部断れって言っただろ? 一貫性にして楽に……って」
「そうだけど……」
「基本、告白を断るスタンスでいいだろうが、気になっている相手からの告白ならOKするのもアリかもしれん。いや、むしろ龍馬はそっちの方がいいと思う」
「ど、どう言う意味……? 話が全く掴めないんだけど……」
雪也の発言に間違ったことはないと思っていたばかりに混迷を示す龍馬。
「龍馬って彼女いたことあるだろ?」
「う、うん。……昔だけど」
「なら想像しやすいと思うんだが……いや、体験してるかもだが、龍馬の性格からして彼女と付き合ってる時に別の女に告白されたら
「そりゃもちろ——あっ……」
その問いに即答する龍馬だが、ここで一つの矛盾があることを悟る。
「気付いたろ? 告白を断って傷付けたくない気持ちはあっても、彼女がいたら即答で断れるんだよ龍馬は。……つまり、彼女を作れば他の女からの告白も上手く躱せるだろうし、厳しいところだとは思うがもし彼女が了承してくれたならこの割りのいいバイトを続けることも可能だろ?」
「ッ!」
龍馬のお堅い性格を利用した裏技的な解決策。
これなら好きな相手から告白されても断る必要はない。彼女という一番の優先順位を作ったなら全ての問題は解決に近い道を辿る。
「この通りになれば告白して来る側も納得するだろうしな? 龍馬には彼女がいるんだから」
「そう……だな」
甘い話なのかもしれないが、これで断り続ける一貫性を持たなくて良い。好きな相手からの告白を受け入れられる。気を楽に出来る態勢が取れる。
「ってなると、今気になっている女はいないのか? もしそうなら好きな人がいるからって決まり文句も言え——」
「——いるよ」
そんな返事をしたのは無論、龍馬である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます