第71話 愛羅と学園祭③
「やっば、え? ラスボスの彼氏!?」
「え、彼氏なの!? 付き合ってんの!?」
「ウソだろ!? マジモン!?」
「オ、オイオイオイオイ! ラスボスが男連れてきてるんだガァ!?」
愛羅のクラスメイトが運営する焼きそばの模擬店前、この場所だけ大きく盛り上がっていた。
「ラスボス言うなし! ってかまだ彼氏じゃないし!」
それは愛羅が男を連れてきたことにより発生したこと。
壁を作らない明るい性格なだけあってクラスのポジションはしっかりと掴めているのであろう。かなりの
「
「そーだそーだ。イッキに言いつけんぞ!」
「なっ、なんでそこで一輝が出てくるし……。出席番号2番3番ごときがでしゃばんなっての」
「「それ関係なくね!?」」
出席番号2番の翔二と出席番号3番の三郎は声をハモらせた。
これは顔見知りの相手と初対面の相手が出会った時のあるある。完全な置いてけぼりを食らってしまう龍馬だが、それを気にかけて話かけてくれた注文担当の女子がいた。
「は、初めまして……です」
マスクをして声の小さいか弱げな女子だが、まんまるの大きな瞳が印象的だった。
「どうも初めまして。……ありがとうね」
疎外感を与えないようにしてくれて、との意味を込めてのお礼である。
ちょっと気まずかった龍馬にとってこれは救いの手でもある。自然な笑みを見せながら顔を合わせた。
「い、いえ……っ! お兄さんとお話するチャンスだと思いましたので……」
「そう言ってくれるとありがたいよ」
今の流れからしてお世辞だと捉えられても仕方はないが、この女子はあのイケメンビショ発見報告のLINEグループの参加者。か弱さに似合わずの肉食系女子である。
「そ、それでご注文はどうされますか?」
「あ、ちょっと待ってね」
か弱げな女子生徒に女子にパーの手を前に出しながら、
「愛羅ー、焼きそばいくつ食べる?」
龍馬は愛羅に問いかけた。
「ほれほれ、お連れの彼氏に呼ばれてんぜラスボス!」
「あなたの愛の数だけとか言ってやれ!」
「マジでからかうなっての! アーシは
愛羅はバイキングで言っていたことがある。
『友達に合わせて加減して食べてる感じ。ふつーは引くっしょ? ガッコでアーシだけこんな量食べてたらさ』
たくさん食べることを隠している愛羅だから1つと言うのだろう。
「それじゃあ
「お、お兄さん焼きそば3パックも食べるんですか……?」
「愛羅がお世話になってるみたいだからね。あ、いっぱい食べるのって変……?」
「いえっ、そんなことないですっ」
「だってさ、愛羅」
「ちょ、こっちに話振るなし! 意味わかんないんだけど!」
必死になってしらばっくれている大食いの愛羅に『ん?』と龍馬もしらばっくれた顔をしながら財布を取り出した。
全体的に男子は女子よりもエネルギー摂取量が多い。これは調査結果でも出ていること。
その分、男が食べる焼きそば3パックと女が食べる焼きそば3パックの印象は変わるだろう。
しかし、『いっぱい食べるのは変じゃない』と、この女子生徒が言ってくれただけで愛羅の気持ちが少しでも変わってくれたら嬉しい……なんて思いだった。
「や、焼きそば一つ300円なのでお会計……1200円になります」
「食券を持ってないんだけど、現金でも大丈夫……?」
「はい大丈夫です」
この高校の学生は食券を持っているらしいが、龍馬は招待された側。現金しか持ち合わせていない。
お釣りが出ないように1000円札と小銭を使って丁度の金額にする。
「1200円ちょうどありがとうございます……。す、少しお待ちください」
そこでごそごそとなにやら手を動かしだした女子生徒。
『少しお待ちください』
このセリフは焼きそばが出来るまでを指し示したものではなかった。
「あの、お兄さん……。これ私の連絡先です。宜しかったらメールください」
「え……」
丁寧に折りたたまれた四角い手紙を渡される龍馬。状況整理で固まっている中、クラスメイトにちょっかいを出されていた愛羅が偶然その光景を見る。そして飛び出してくる。
「ちょ、
「コレ呼びはないだろ。俺は人間だ」
「こ、こっそりしたのにバレちゃったぁ……」
「ふ、二人してマジなんなのっ!」
「男」
「マスク女子……」
「そうじゃないしっ!」
杏と呼ばれた女子生徒は龍馬のノリを理解し乗ってくれる。こちらにやり慣れたようなウインクを送ってきた。龍馬は『やるな』とまばたきを一回。初対面とは思えないアイコンタクトだ。
「ホントにさ、りょーまセンパイしっかりしてっての……。そーいうのちゃんと断ってくれないとアーシ不安になるじゃん……」
全く反省していない様子の龍馬に愛羅は顔を俯かせた。不安は本物だろう。愛羅の手は龍馬のベルトを握っている。
「いや、それはすまん……。ただいきなりのことでびっくりしてたんだよ」
「一緒にいてって約束は守ってくれないと困るし……」
それだけでは飽き足らず、もう片方の手を愛羅は龍馬の腕に巻いた。
ハイヒールを履いている愛羅のだがそれでも龍馬との身長差はある。体格の違いあり、それは甘えまくったように移る。
こんな甘えた愛羅の姿はこの高校で誰も見たことがない……。
「そんな心配すんなって。
「今の感じだとアーシも男子トイレ着いてくし……」
「ははっ、それも面白いかもな?」
「笑い事じゃないんだし……」
完全な二人っきりの空気を作る愛羅。だが、龍馬はしっかりと周りを見ている。
「まぁ、こうなるよな」
「あっ……」
その場には二人の喋り声以外なかった。青春を匂わせた光景の最初から終わりまでを目に焼き付けるように無言で見守っていたのだ。
愛羅はクラスメイトの顔を見て龍馬と触れていた手をそっと離す……。
一歩二歩、さりげなく距離を開ける。
「愛羅ちゃんずるい……。二人の空間作って……」
そう言うのは注文を担当してくれた女子生徒。
「おい三郎……。このオレが間に入ることすらままならなかったぞ……」
「翔二……。賛同だ……」
「出た、三郎の賛同……」
愛羅をラスボスと一番にからかっていた出席番号2番と3番の男子生徒も。
「やっばい……。やっちゃった……し」
「あと愛羅、偶然戻ってきたあの方言使う女の子に写真撮られてたぞ」
「ハァ!? ちょ、ウソマジ!? いやなんで教えてくれなかったわけ!?」
「なんか『しー!』ってサイン出されたからなんとなく……」
「もうダメ……。ムリ……。アーシのガッコ生活終わった……」
愛羅は知っていた。あの方言女子がイケメンビショ発見報告のLINEグループの創立者であり、一番の活動家であることを。
絶望の影をむんわりと漂わせた愛羅は
****
『カーキー色コートのイケメンの顔ゲット! 隣に愛羅っちがいるっちゃけど逆にこれがてっげ良い写真! 保存拡散厳禁やけんね!』
その方言女子はすぐにイケメンビショ発見報告のLINEグループに写真を載せた。
『うっわ、めっちゃ乙女顔やん愛羅ちゃん』
『クソ愛羅カワイイんだが……』
『悪魔の衣装でコレはやばい。なんでこの男は平然としてられるんだよ……』
『経験値だろうな。だろうなじゃない、絶対だ』
『ちょ、愛羅っちじゃなくてイケメン見てほしいっちゃけど!』
『愛羅ちんもビジョだからセーフ』
『確かにそうやっちゃけどさ!!』
そのグループは写真を載せた後に100件近いやり取りが続く。
「は……?」
そんな真っ最中、龍馬と愛羅の写真を見たとある者は瞳孔を開きながら手を震わせていた……。
姉の元カレ依存をやめさせるために役立てようと男の情報を獲得しようとグループに参加した、ある者だった……。
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