第70話 愛羅と学園祭②

「な、なんか言えし……。じっと見られんのキツイんだけど……」

「いや、そんな風な格好で来るとは……な?」

 その数分後、無事に愛羅と合流した龍馬だが——見惚れないように必死になっていた。

 龍馬が目にしている愛羅は高校の制服姿ではなく、さまになった悪魔姿だった。


 一番目に付くのは大きな赤リボンで結ばれた金髪のツインテール。貴族が着るような赤のラインが入ったフリル付きの黒ドレスに背中には小さな黒の翼。

 脚には薄めの黒いタイツに赤のヒール。そして耳には銀に輝く十字架のピアスがつけられている。

 さらにはそれに似合った化粧を施した、学園祭はっちゃけ完璧なコスプレ。


「……凄く、似合ってるけど」

「もっと褒めろし」

「か、かわいい……ぞ?」

「疑問形で言われんの一番ヤなんだけど!」

「……まぁ、そのなんだ。言葉が出ないくらいには良いと思う。俺はだけど」


 龍馬は愛羅から目を逸らし快晴の空を仰いだ。こんなにもぎこちなく、顔を合わせられない理由。

 心の準備をせずこの衣装。愛羅の破壊度が恋人代行での経験値を上回ったのだ。


「りょーまセンパイがそのチョーシだと困るんだけど。めっちゃ恥ずかしくなるじゃん……」

「自分からしたわけじゃ……ないのか? その格好は」

「な、なわけないじゃんっ! 学園祭だからって罰ゲーム決めてじゃんけんしたら負けたわけ! ダンゴムシの件もあってみんなアーシをイジる味を占めたっての? それで……結果コレになった」

「……まぁ、それは後々良い思い出になるだろうし罰ゲームをちゃんとまっとうしてるあたり偉いじゃないか」


 愛羅からしたら罰ゲームなのだろうが龍馬から、いや男子連中からしたらご褒美をいただいているようなものだろう。

 愛羅に向けられた注目の視線が龍馬にまで伝わってくる。だが、愛羅のような人物が男子心を刺激するような格好をしているのだから当然とも言える。


「アーシも要望入れてないコトないけど校則ないからってこれはヤバイでしょ。午前中までコレって制限だから助かったけど! てか脚ちょっと冷える」

「もう少し厚めのタイツにすれば良かったんじゃないか?」

「りょーまセンパイって言うか、オトコって薄い方が好きっしょ? だからコッチなんだけど……実際どうなの?」

「その質問をされると困るんだが……」


 チラッと愛羅の白い脚に包まれてた黒タイツを見る龍馬。そのまま視線を上げていき——あからさまに顔を逸らす。


「ほらやっぱり好きなんじゃん!」

「……その服には似合ってるって思っただけだ」

「マ、嫌いって言われるよりはマシだから良いけど……さ」

 愛羅はツインテールに変えている金髪を触りながらほんのりと照れた様子を浮かべていた。


「それとな? 少し話変わるんだが……ツッコミ入れて良いか?」

「そんな前置きしなくても良いって。なに?」

「その衣装って悪魔をモチーフにした感じだろ? 悪魔に光り物は合わないんじゃないか?」


 悪魔の弱点は複数あり、聖水や聖なる呪文など。その他にも光り物が苦手だとも言われている。悪魔をモチーフにしたのならその設定は守ったほうが良いんじゃないか? との龍馬の投げかけでもある。


「これワザと。銀もちょっと入ってる」

「は?」

悪魔でびるには負けないって意志だしこれ。銀って悪魔の一番の弱点とか聞くし」


 愛羅はこの衣装で系統の似たゴスロリ有名漫画家に挑戦状を叩きつけていたのだ。この弱点の銀のピアスをつけることで、さらにでびるちゃんには負けない、、、、、、、、、、、、との意味を込めて。


 だが、これはなかなかにわかり辛い例え。異性としての好意を感じ取っていないなら特にだ。


「ほぅ、煩悩には負けない……か。受験シーズンにはぴったりだな」

「マ、そんな意味もないことないけど……」

「でもところどころ猫耳とかしてる在校生いるよな? それも罰ゲームなのか?」


 首を左右に動かしながら周りを確認する龍馬。決して多いわけじゃないが、ちらほらと可愛げのある格好した学生が見える。


「あれアーシの友達とか、楽しそーって感じで乗ってくれた人。中にはアーシみたいにガチガチでしてくれてる人もいたりで助かってるけど——」

「——けど?」

「アーシのことをラスボスとか言ってくるのはマジで腹立つ!」


 そんなプンプンの愛羅がフラグを回収するのはとてつもなく早かった。


「おー、ラスボスお疲れ!」

「おいおい! 眷属増やそうとしてんぞおい!」

「うっさいしボケ!」


 笑いの神様が付いているのか付いていないのかは知らないが、ラスボスと言われてるのが事実だと判明した瞬間でもある。

 制服を着た男子二人組にからかわれた愛羅は相変わらずの暴言で返す。

 

 話のやり取りを見る限り仲が良い者同士なのだろう。

 そんな男子二人は、龍馬のことを気にかけてか、一言の会話をして去って行く。


「……フラグ回収検定、一級取得だな愛羅。言った側からじゃないか」

「そんな認定いらないんだけど」

 だが、今の出来事で龍馬の緊張は少なからず緩和する。なんとかいつも通りを振る舞えるくらいにはあった。


「ってかさ、アーシも一つツッコミたいんだけど、りょーまセンパイ今日めっちゃ気合い入ってんじゃん。オシャレしすぎ。大人のオーラの出しまくりでぶっちゃけ浮いてる」

「う、嘘だろ? 変か?」

「ぶっちゃけ目は惹かれるんだけど……さ? JK狙いに来てる感じでアーシは複雑」


 愛羅は独占欲が強い。龍馬を絶対に誰にも渡したくないとそう思っている。

 そんな龍馬が別のJKを狙っているなんてのは大変好ましくないのだ。


「別に狙ってるわけじゃないんだが……」

「それは盛ってる」

「本当だって。俺、愛羅に少しでも釣り合うようにって頑張ったんだから。今日は愛羅と楽しむつもりなんだし」

「っっ! そ、それ言わなくていいって……」


 今度は直接言われることになる。愛羅がこっそりと聞いてしまった、顔のニヤケが止まらなくなったあのセリフを……。


「いや、そんなもじもじされても……な?」

「す、するに決まってんじゃん……」

「あ、じゃあJK狙いに来てる」

「もうコロス」

「はははっ、変わり身凄いな」


 顔を赤らめからのキリッと顔にシワを寄せた愛羅。似合いすぎた悪魔のコスプレをしている影響だろう。全く怖くない。


「じゃあそろそろ模擬店回るか。俺焼きそば食いたいんだよな」

「たくさん模擬店ある中で一番に焼きそばって……。焼きそばアーシのクラスが担当してるんだけど」

「だからどうしたんだ?」

「さ、さっきりょーまセンパイをナンパ、、、してたアーシのクラスメイトいるかも……。しかもアレ友達だし」

「あの方言の女の子? まさか見てたのか……?」

遠目から、、、、


 なんてのは嘘である。本当は声が聞こえるくらいに近いところにいた。しかし、ナンパが終わっても愛羅はすぐに会いにはいかなかった。


『悪いけど俺にとってはそっちの方が大切だからな。正直、少しでも早く合流して楽しみたいくらいだ』

 そんな龍馬の本気のトーンを聞いて心を落ち着かせる時間を取っていたから。


 愛羅は頭が良い。見ていたといえば時間のラグが発生する。辻褄を合わせるためにも『遠目から』というのが正しいのだ。


「いや、別にナンパされたわけじゃないけどな。道聞かれたって言うか」

「りょーまセンパイってアドリブ弱すぎ。在校生が道聞いてくるわけないじゃん。明らかな私服姿のオトコにさ」

「まぁ、それがあったんだよな」

「マ、特別にりょーまセンパイのこと信じるけど……」


 ナンパをされてたと言ったら愛羅が嫌な思いをするだろうと虚言を並べる龍馬。

 さりげない気遣いをしているも、現場を見ていた愛羅にはバレバレである。


「そう言えば愛羅は模擬店の手伝いとか大丈夫なのか? 確かクラスメイト全員入らないとだろ」

「アーシは昨日入ってたから今日はフリー」

「この学校は学園祭二日間あるんだっけ?」

「詳しいじゃん? 初日は校内開放だけだから、りょーまセンパイとのよーじがないそっちに入れてもらったわけ」

「わざわざありがとうな」

「アーシが誘ったんだからそのくらいするし……。ナメんなっての」


 愛羅は龍馬との学園祭を一番楽しみにしていた。模擬店の手伝いなどで時間を無駄にしないためにも、昨日のうちにやることは全部終わらせていたのだ。


「だ、だからさ……? アーシがせっかく調整したんだから今日は一緒にいてよ?」

 在校生の目があるからだろう。龍馬の袖を掴む愛羅は少しばかり体を寄せてくる。まるで付き合ってることを周りに隠しているような、そんな雰囲気。


「愛羅こそいなくなんなよ? ここの卒業生でもない俺が、こんな学園祭に一人は辛いし」

「いなくなんてなんないし。りょーまセンパイ取られんの一番腹立つし」

「ラスボスらしい発言だ」

「うっさい! ほら、じゃあ焼きそば行こ」


 愛羅は龍馬の腕を引っ張りながらクラスメイトが運営している焼きそばの模擬店に向かう。ほんの少し龍馬を見せびらかしたい思いで。


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