第58話 ※R15注意 side姫乃、代行終わり

「今日はありがとう……」

「わざわざ見送らなくても良かったのに。しかもお金もあんなに……」

 姫乃はエントランスの外でシバと簡単な会話をしていた。


 時刻は21時4分。18時からの依頼で3時間の代行になる。

 代行の時給は3000円。計9000円の支払い。

 でも、姫乃はシバに迷惑をかけた。だから1万5000円渡した。

 シバはずっと遠慮してたけど、姫乃は『もらうべき』って無理やり受け取らせた。


「白米だけの生活になったりしない?」

 シバは失礼なこと言ってくる。でも、心配してくれてることが嬉しい。


「大丈夫。漫画でいっぱい稼ぐ」

「そ、それは頼もしい。……じゃあでびるちゃんの言葉を信じるよ?」

「ん、信じていい。あと、今日のことは誰にも言っちゃだめ」

「それは俺の方こそ。あっ、ケーキは早めに食べないと消費期限すぎるからね?」

「すぐ食べる」

「はははっ、また食べたくなったら買ってくるよ」

「いっぱい食べたい」

「こら食い意地」

「ふふ」


 シバと話すのはやっぱり楽しい。小さくだけど、姫乃は顔が緩む。

 こんな人が大学にはいるんだよって、妹たちに教えたいけど……教えない。

 男遊びにハマっても困るから。

 シバはそんなこと狙わないと思うけど、その力は持ってる。

 本気になったら……姫乃も、だめになるくらい……だもん。


「じゃ、また大学で。と言っても大学だと俺はあの格好だから連絡はTwit○erでお願い」

「ん、わかった」


 姫乃はシバのこともったいないって思う。

 今の格好でいればいいのにって。


「姫乃、見送りありがとね」

「気をつけて、帰って」

「おう!」

「……おう」

「ははっ、姫乃は言わなくていいのに。それじゃあね」

「ん」


 外は寒かった。シバに風邪引いて欲しくないから、まだおしゃべりしたかったけど姫乃は止めない。

 シバの背中が見えなくなるまで見送った姫乃は、入居者キーを使ってお家に帰る。


「ん……気持ち悪い……」

 玄関内、姫乃は思ってたことを声に出す。

 姫乃はずっと我慢してた。この我慢がなかったら、シバとまだ別れずに済んだのに。

 女の子は、こうなるからやだ……。


 スリッパを脱いで姫乃は廊下を進んでお風呂場に向かう。

 お風呂場に着いたら、姫乃はパジャマのズボンを脱ぐ。……次に脚を通して下着ショーツを脱ぐ。


「うぅぅ……シバの、せい……」

 姫乃は脱いだばかりの下着を広げてみる。

 感覚にあった通り、やっぱりだった。


 まんなかに大きくある透明の液。ぬるぬるしてシミになった下着ショーツ……。シミの原因である透明な液は姫乃の内股にも流れていた。


 誰にも見せられないくらいに、言えないくらいに、漫画描いてるのバレるよりも恥ずかしいこと……。


(こんなに、なってる……なんて……)

 スースーする気持ちを我慢して、 姫乃は濡れた下着ショーツを持ってお風呂場の中に入る。

 プラスチック製のたらいの中にぬるま湯を張り、下着にボディーソープを付けて手洗いを始めた。


 姫乃はえっちなこと……考えてない。シバがあんなことしたから、だから……。


「肩を押されて……倒された……」

 ベッドドン……。本当にドキドキした。あのドキドキでこんなになった。

 シバは躓いたって言ってたけど、嘘だと思う……。本気になってたから、いじわるだと思う……。

 

 そんなの……しなくて良かったのに……。しなかったら——

「こんなに、ならなかった……のに」

 あんなに下着が濡れるの、初めてだった。内股に流れてくるのなんて、初めて。 

 動悸が一向に収まらない。もう考えたら考えるだけ……気持ちが昂ぶってくる……。対処の方法も分からない。姫乃は無心に洗い続ける。


「……ん」

 汚れが取れたことを確認した姫乃。下着を洗濯ネットに入れ、ズボンのパジャマも入れ、中に入ってる洗い物と共に洗濯機をかけた。

 これで一応の処理は終わる。


(ばかシバ……)

 こうなったのも全部シバのせい……。姫乃をこんなにドキドキさせるから……。

 ちょっと怒りたいけど、いろんな女の人にこんなことさせてるんだって思ったら……モヤモヤした……。


 新しい下着と新しい下パジャマを着た姫乃は作業部屋に移動した。


 姫乃はまだしないといけないことがある。今日シバに依頼をしたのは欲求を叶えるためじゃない。……漫画をレベルアップさせるため。


 姫乃は今日の貴重な体験を忘れないようにメモに感想を記していく。

 体験してわかった。Twi○terでの指摘、あれは間違っていなかったんだと。


『絵も上手いし、犯罪的にならないように描けてはいるけど惜しい。ヒロインがその時どう思っているのかもう少し出すべき。面白いんだから』

『それ分かる! なんか『ドキドキ』とか画面いっぱいに使って誤魔化してるよね』

『体験したことがないから分からないんじゃないの?』


(次は……この指摘されない)

 今度は擬音語なんかで誤魔化さずにリアリティのあるものが描けると確信していた。

 姫乃にとって大きな自信になっていた。


「シバの……おかげ。姫乃のわがまま聞いてくれた、おかげ……」

 姫乃の財布の中身にはお札一つ残ってない。銀行に行かないとない。……でも、いい。

 全部お金を渡すくらいに姫乃は感謝してたから。


「なんで……シバは、そんなに優しいの……。姫乃は、いっぱい迷惑かけたのに……」


 シバは姫乃のために会社に電話してくれた。イメージが下がることも、怒られることも、我慢して……。

 姫乃がわがまま言っても、なんで嫌な顔……しないで。

 お金、節約してるのに姫乃がケーキ食べたいってお話したから……わざわざ買ってきてくれて……。


 これが、シバがリピーターをつけるための、お金を稼ぐための作戦なのかもしれない。でも、ここまでするはず……ない。


 ばかで、いじわるで、ずるい……。でも、頼り甲斐があって、いっぱい優しくて——

茅乃かやの夢乃ゆめのも……好きな、タイプ……」

 ぽーっと頭が働かない。考えれば考えるだけ……だめになっていく。

 いつも描く漫画に……取り組める状況じゃなかった。

 もう、あのスイッチが入ってしまっていた。


(シバの……匂い……)

 ずっと気付いてた。シャチのぬいぐるみから……柑橘系のいい匂いがすること。

 シバが抱いてたから、匂いが移ってること。


 姫乃は、シバに……あんなこと……された。

 頭なでられたり、ハグされたり、ベッドに……押し倒されたり……。


「はぁ……はぁぁ……」

 シバの匂いを嗅ぎながら……姫乃はどんどんと艶かしい声を上げていく。

 着替えたばかりの下着がまた、あの時と同じになる……。内股に透明な液が垂れていく……。


 もう、我慢の限界だった……。

 姫乃は下のパジャマを脱ぎ、下着の上からなぞり、隙間から指を入れていく……。

 シバの移った匂いを嗅ぎ、相手を想像しながら……姫乃は行為を始めていく。


「くぅ、んんっ……」


 口を紡んで声を漏らさないようにしていた姫乃。でもそれは最初だけ……。


 時間をかければかけるほど、気持ちは昂ぶっていく。じわじわと激しくなる。


「ひぁっ……やぁあ、んっ……」

 身体をくねらせ、みるみるうちに姫乃は作業部屋に喘ぎ声を響いていく……。

 頭はもう何も考えられない。それくらいに濃密な感覚だった。



 事後……姫乃は気づくことになる。

 あのYahoo知恵袋でした質問の観覧数ランキング、総合一位に輝いていることを。

 たくさんの応援のメッセージ。そしてアドバイスが届いていたことを。

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