第23話side愛羅① センパイに一泡ふかせたい

 アーシはいつもお世話になってる書店に入る。もうここじゃ常連になってる。

 だって本を買う時は毎回ここだし、一週間に2回は来てるし。

 マ、一番の目的はセンパイと話すコトだけど……。


「いらっしゃいませー。おっ! 愛羅ちゃんお疲れさま」

「てんちょーさんもお疲れさまー」

 レジにはやさしー顔してる店長おじさんが立ってる。じゃあセンパイは外回りの仕事をしてるってコト。


 アーシはキョロキョロしながらセンパイを探す。

 一般文芸コーナーにも漫画コーナーにもいない。スタッフルームに入ってるかもだけど、センパイがバイト中にソコに入ってるところは見たことない。

 ……となると、あそこっぽい。


 書店の端っこ。児童書のコーナーにアーシは向かう。

 

 いた……!

 アーシの予想通り、センパイは児童書の整理をしてた。

 なんか楽しそーに。てんちょーにも負けないくらいやさしそーな顔して。


 マ、児童書って『きみのうんち!』とか、『みんなのヒーロー、キンタマン!』とかダイレクトな題名多いから、見るの面白いし微笑ましくなるのはわかるけど、アーシには今センパイがしてる顔、一度も見せてくれたことない。

 

 なんか児童書に負けた感じがしてムカつく……。

 ってか、アーシのお兄ちゃんセンパイが別の女にそんな顔見せてるって思ってもムカつく。なんかモヤモヤもするし。


 アーシをこんなヤな気持ちにさせるサイテーなセンパイだけど、会えたら嬉しくなる。だからセンパイが働いてる日にだけ顔出してるワケだけど……こんなこと絶対センパイには言ってやらない。

 だって笑ってくるだろうし、『お前友達作れよ』とか友達いないセンパイが煽ってくるだろうし。


 ってかセンパイぜんっぜん本の整理が進んでないじゃん。給料泥棒してるじゃん。

 今手に持ってるの『くろくまさんのほっとけーき』ってヤツ、30秒くらい題名見てるし……。

 ちょっと、ほんのちょっとだけカッコいいセンパイなのは認めるから言うけど、カワイイ児童書見てギャップ萌え狙うなっての。

 アーシが横から見てるのに気づく素ぶりもみせないくらい惹き付けられてるし……もういい。寂しくなってきた。アーシから行く。


 こっそりと後ろに回って——

「セーンパイ!」

 両肩に手をボンッ! 

「ううぉぉおッ!?」

「あはははっ、なにその声!」

 集中して見てたんだと思う。今までアーシが見たことないくらいのビックリ具合。やっぱセンパイ面白い。


 ホント……会えて良かったって思う。

 でもどーせ、『お前頭でも打ったか』とか冷めた目で見てくるから、絶対言ってやらないけど。


「はぁ……。お前かよ……」

「アーシだよー?」

「帰れ」

「ヤーダ。今日はセンパイと一緒にお出かけする日だし」

「は? 初耳なんだが!?」

 なんか今日のセンパイテンション高い気がする。

 あ、違う。アーシに児童書ガン見してるとこ見られて恥ずかしがってるだけだ。こっそり児童書戻したし顔ちょっと赤くなってるし。


 ……マ、アーシもテンションは高くなってるけどさ?


「バイトあと12分で終わりでしょ? そこからでいーからご飯食べ行こー。センパイもお昼ご飯まだっしょ?」

「俺は帰って寝る」

「ふーん。じゃヒマなんだ?」

 センパイ友達少ないから、そんなコトだろうとは思ってたけど。


「いや、寝る用事あるから暇なわけじゃない」

「アーシとの契約もう忘れたんだ?」

「……」

「友達との先約があったならアーシも無理強いはしてなかったけど、そのくらいのよーじならパパに言っちゃおーっと。センパイが150Kってお金を詐欺ったって」

「……い、行く、行くよ。行けばいいんだろ……」


「うっし! ならアーシは漫画のとこいるからバイト終わったら呼びにきてー! あ、いちお言っとくけどもしそのまま帰ったりしたら——」

「そんな自殺行為はしない」

「ならいいけど……さ? じゃ、とりあえずお出かけヨロってことで」

「ああ」


 センパイにバイバイしてアーシは大好きな漫画コーナーに行く。

 いつもならウキウキで見て回るけど、今日はそうじゃない。新刊も入ってたけど、……今日だけは手に取る気分じゃなかった。


「はぁー……」

 勝手にため息が出る。

「センパイってアーシに興味ないのかな……。アーシと出かけるのがそんなにヤなら、逆に気ぃ遣うっての……」


 なんにも気にしてなーいって感じで話してたけど、ちょっとツラかった。

 センパイから貸してもらってるマフラー巻いてたのに、髪型もネイルも変えたのになにもツッコんでくれなかったから。


 ネイルとか小さなトコは気づかないのは仕方ないかもだけど、マフラーと髪型には触れてくれるかなーって思ってた。コレ、カワイイけどすごく手間かかるし……。普段は髪結んでないから気づかないはずないのに。


 めんどくさーって思うかもだけど、オンナってのはソコに気づいてほしい生き物なのにさ……。あほセンパイ。


 アーシの意見にはオトコ以外みんな賛成してくれると思う。言えば評価上がるのに。


「なんか相手にされてない感がスゴっていうか……。今日特に実感したっていうか」

 髪型変えたりした時は、特にオトコから『似合ってる!』とか言ってくれる。オトコのセンパイただ一人に言われないのはけっこー効く……。オンナのプライドを傷つけられたそんな感じ。


「あ、なんかめっちゃムカついてきたんだけど」

 センパイを手玉に取るどころか取られてる。こんなのアーシが理想としてるギャルじゃない。ってか、オンナ扱いされてない気がする……。


「くっそ! イライラじゃんこんなの。決めた。センパイをギャフンって言わせてやるし」

 想像だけど、センパイはアーシのことガキだと思ってる。 

 もーいい、まずはアーシをオンナと意識してもらう。甘えるとかそんな目的はあと。午後から夜まで時間はたっぷりある。


 どーせセンパイなんてオンナと遊んだことないだろうから……いきなり手繋いで一撃でオロオロさせてやるし……。


 アーシは決意する。センパイに一泡吹かせてやる! って。






 ——でもさ、このあと逆にセンパイから一泡も二泡も吹かせられるとか思いもしなかったし……。



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