第一章【完結!】:アイドルの言葉の由来には、ラテン語の偶像崇拝が転じているらしい。

 そもそも、勝ち目など無かった。


 インプ・ラ・キャブラ。山賊の頭にして、元【王立勅撰騎士団シエト・コラジェ】……。




 「ジョブは元【暗殺者アサシン】。今の山賊になった時、転じて派生職業アグラバシオン【山賊ポロフライト】を得た」




 暗殺者アサシンの基本スキルは4つ、


【子ヤギの跳躍カブリト・サルタンド】・【カメレオンの暇オーシオ・カメレオン】


 さらに、後2つ……。




 そしてさらに厄介なのが、その上位互換に当たる【山賊ポロフライト】。そのスキルは、一つにして7つの形を持つという、弁慶も驚きである。




一つ、【山賊の七つ道具:狼の牙コルミリオ・デ・ロボ】


二つ、【山賊の七つ道具:毒蜂の一撃ウナフォト・デウナ・アベジャ・べネノサ】


三つ、【山賊の七つ道具:熊の爪ガラ・デ・オソ】




四つ、【盗賊の七つ道具:********】……、ソードブレイカー。




五つ、【盗賊の七つ道具:巨大サソリの尾コラ・デ・エスコーピオン・ギガンテ】


六つ、【盗賊の七つ道具:竜の雄叫びドラゴンクライ】


 あと、1つ……。




 対する、僕はと言えば。




 【無産市民アパラスタダ】_職業ジョブを持たない人々の総称。






 いや、待てよ。


「姫様って、称号デレイチャ持ちだけど。職は、無いんじゃ……」


 つまり、【無産市民アパラスタダ


「ムム、聞き捨てなりませんね」


 本当に、姫君はこちらによそ見をした。聞き捨てず、僕の方へ振り向いた。




 隙。


 ダンッ、ダンッダンッ。竜が、火を噴いた。




「破壊、します」


 よそ見したまま、無感情な声だけが発せられる。


 破壊、破壊。


 一つ、二つ、三つ……、まだまだですね。


「畜生、チート使いあがってッ」


 後ろで、そう声を荒げたのはキャブラだろう。ただ、姫君に見つめられてとても、目を離せない。


「私は、姫君プリンセスですよっ!?」


「?」


 ああ、なるほど。




≪『ラズ・イ・ソンブラ姫』>メニュー>職ジョブ


・【姫君プリンセス



 やっぱり。


 姫、というのは最早、職という事らしい。人間王も、王妃もそうなのだろう。


 じゃあ、勇者も??


「勇者は、職ジョブは職でも、EXジョブと言って特別枠です。何というか、まあ。職とは言い難いってことですね」


 ???


 ジョブと、エキストラ……。派生、もうよく分かんねえよっ!!


「大丈夫ですよ」


 姫は、柔和な笑みを浮かべる。慈愛、こういう事だろうか。




 あの時の、自分に見せてやりたい。




「貴方は勇者様ですから」


「いやっ」


 姫様、僕はそんなたいそうな人間じゃありません。41回の間に、誰も倒せなかった。


 どころか、仲間も守れずに……、貴方に助けてもらっている。


「姫様、僕はっ」




「これでも、2番隊を背負ってったんだぜッ」


 ダンッ。ダンダンダンッツ。銃声。


「はかッィ……あれ?」


 バサッと、姫の桜色の髪が、揺れる。肩までかかる見事な髪が、揺れて、裂ける。


 小さな弾痕から、やっとキャブラが見えた。


「ちえッ、使い辛ぇな」


 そう言う彼の手には、銃? いや、ただでさえ手のひらサイズだったのに。




「複合スキル、っても元の(暗殺者)と山賊の(盗賊の七つ道具)を合わせただけだけどな」


【実在したハチドリ(コリブリ・レアル)】


 小指サイズの、ピストル。


「威力も落ちちまう、まあ。殺傷には十分だがな」




「破壊、破壊破壊破壊」


 四つ、五つ、六つ……、まだまだ。姫は髪以外に、何処の傷もないらしい。良かった。


「姫ッツ」


「いや、ダイジョブです。それより、頭を下げておいてください、来ますよ!」


 姫は、キャブラの方へ向き直す。


 その美しい長髪に、幾つかの傷が付いている。これが、最後の傷になればいいのに。




「ダイジョブさ。これから先お前は、彼女の傷を見ることは無いのだから」


 誰かが僕に囁いた。




「お前らッツ、やるぞ。遠くに離れてろ、そして」


 二度と、戻ってくんな。


「ありゃしたあああ」


 森の中から、そんな声がした。おいこら、この野郎。帰ってこいチコッツ! アイツ、一目散じゃねえかよ。取り押さえろ。ひえっ。あ、逃げやがった!




 ひくいち。




「お前らも、続け。巻き込んじまうぞ」


 そう言って、彼は屈む。それは陸上のクラウチングスタートに近い、始まりの姿勢だった。


「【子ヤギの跳躍カブリト・サルタンド】を、出来る限り……」


 身体上昇のスキル、それを彼は計4回だろうか、点滅があった。


「これぐらいやりゃあ、アンタについていけるかな?」


 何処か苦し気に、彼は言う。それに対し姫は、無感情に、


「早さは問題じゃない」


 そう言った、瞬間に。




「先ずは、一発目っ!」




 キャブラの体が、姫の真横をとった。そのまま、手の触れられる距離で、ダンッツ。


「何度やっても、はかィ……」


「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


 ? 恐らく、最後の暗殺者スキル。




 次……、背後。ダンダンッツ。


「破壊ッ」


「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


 ??


「何を、やっているんです?」




「破壊しますって」


「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


???


「いないっ、どこに」


姫は咄嗟に、自分の体を確認する、が。勿論、一つも傷はついていない。




ダンダンダンッツ! 「まだまだ」


「破壊」


「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


「だからッ、弾は? 弾を、どこに」


ダンダンダンッツ。


「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


「破壊」


破壊破壊はかい破壊破壊破壊ッツ!




 手ごたえの無い、破壊の声。


 着実に何かを成しているような、キャブラの嬉々とした声。


 広間に、二人の口喧嘩のような、それでいて他人事がつらつらと。


「破壊」


「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


 気付けば、逆転し。戻り、逆転し。




「【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】」


「破壊、出来ていない」


 どうして?




 こんなやり取りが、4~5回は繰り返され、そして。


「行くぞぉおおおおおおおおッツ!」


 獣の雄叫びが起こる。広間の中央、息が切れたキャブラだった。


「姫様っ。俺ぁ何が、あの人を勇者から踏みとどまらせたのか知らねえがよ」


 姫は、いつの間にか僕の前に。


 息が、切れている。


「あの先で、名誉ある死を待ってたんだ」


「そんなもの、ありませんよ」


「いや、俺はあると信じていた。でないととても、やっていけなかったから」


 銃もない、膝は地についていた。


「破かっ」


「俺はっ」


 キャブラは姫でなく、僕を。僕を見据えるようにして、言う。




「わざわざ生き勇んで、死にに行くようなことは無いと思うんだ。列車に乗った後じゃ、幾ら後悔したっておせえんだ。あれは、片道切符だ」


「だから、此処で食い止めると」


「不器用なんでね」


「いえ。此処に辿り着いた人間に、そんな言葉で踏みとどまれる人なんて、今も今までもいなかったでしょうよ」




 貴方が仲間を背負ったように。彼は今、その先を見ようとしている。




「じゃあ、止めて見せろよっ!」


 何を?


「俺は、【容赦の無い情け(コンパッション・デスピダダ)】を解除するぜ」


 解除? 果たして、何を? 何を、解除するというのだろう。


「アンタは、破壊だ。それは確かに最強だけれどよぉ。そりゃあ、出来ればの話だよなあ」


 解除……、解除?


「ああ、そうですか。どおりで。破壊するまでも、無かったから」


「同時に、ほぼ全方向から。しかも、視認の厳しい、極小の弾をぶち込まれたら?」


 流石に、まいるよなあッツ。


 何が起こっているのか、僕だけが分かっていない。その恐怖で、僕は体を縮ませる。と。


「冷たい?」


 朝露? いやいや、宙だぞ。 雨でもなく、まして空気じゃないとすれば。


「幾つの弾が、宙に残留しているんでしょうね?」


「俺が静止させている数は、23発」


「十分ですね」




 かぞえまちがい




キャブラは右手を突き上げた。


恐らく勝利と、自死の象徴として。


「解除」


 その瞬間に、全方向。全角度、全弾丸。


 23発が、発射された。


「勇者様、山賊の数は何人でしょう?」


 何? このタイミング?


「ええ……、と。20~30。もっと増えてるかもしれ」


「ぶぶー、30名です!」


 ああ、クイズ形式でしたか! おいおい姫様、可愛いなあ。




「破壊します」




 無感情に発せられた一言で。


 そう、たった一言で? ジャスト23発は、破壊されたのだった。


「はあっ?」


「いえ、正しくは。23発の弾丸が発射される、というアクションを破壊しました」


 あー、それごとってことね。ハハッ。


「って、おい! そんなこと出来ちまったら。あんた、ああ」


「私は、世界最強ですよ!?」


 右拳を突き上げたまま、キャブラは。ははっ、そう渇いた笑いを。そうするしか、無かった。


「もう、終わりだ」


 初めて聞いた、彼の弱音。


 頭、として。


 その手前、元【王立勅撰騎士団シエト・コラジェ】の誇りをかけて。彼は、負けたのだった。


 いや。まだだ。




「頭っ。アンタの弱音何て、誰も求めちゃあいねえぜ」


 この声は。


「テレンダ? だけじゃ、ねえな。お前ら、何で?」


 この広間は今、再び彼らのアジトになっていた。囲む森から感じる、視線と高揚。その中心で、山賊の頭は何が起こったのか理解できずに、ははっ。


 そう笑った。


「盗賊の七つ道具、最後の道具は。そう、それだけが、アンタの考案だろお?」


 テレンダが叫ぶ。それに応えるように、


「うるせえ!」


 彼は膝を、上げた。


「そんなの、決まってんじゃねえか!」




七つ、【盗賊の七つ道具:かけがえのない仲間】




「やかましいやい!」


 その掛け声は、頭か、テレンダかほかの一味かもしれない。


「行くぞぉおお」


 囲む森から一斉に、彼らは姫に飛び込んだ。


 一人の冒険者として、彼は姫に完敗したけれど。頭として、まだ彼は負けていない。


「俺だって!」


 先ほど、一目散逃げたはずの男も。全員が、一斉に攻撃を仕掛けるのだった。




【山賊の……】 【暗殺者アサシン】の……、スキルッ!


声が、揃った。












あっ。冷たい? ああ、そうか。ハハッ。






「いやあ、なんか良いムード悪いんですけれど。私、何か忘れてません?」


 姫が、言う。


 あの心の和む、弾む声だった。




「【21番の大アルカナ_世界の能力:創造キング】」




 破壊と創造。


 その二つを持ち、故に世界。


 故に、最強。




「私が創造するのは、弾丸の勢い。今まで破壊してきた勢いと、さきほど不発した23発」


 計29発。


 対する山賊の一味、30発。


「貴方を残しましょう」


 意味ありげなセリフと共に、全ての弾が。発射された。






「どうして?」


「どうしてって。貴方が一番、権利を持っているからよ? 物語に登場する権利。いや、称号デレイチャ


 先ほどまで、意気揚々としていた人の群れが。


 一瞬で、壊滅した。その、広間で。


「そんなもの、何になるというの?」


 テレンダは、死体の山を見回した。


「何もなければ、何も起こりはしないわ」


 そう言って、姫君も周りを見回した。


「ねえ? こうしましょう」


 それは、背後に守られていた、僕に対する声だった。


「はいっ?」


「彼女を生かすか、殺すか。勇者様が決めてくださる?」


 え?



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