第4話:山賊焼の山賊は、元々『山賊』さんのメニューで店名から取ったらしい
「奴らの頭は、元冒険者。王立勅撰騎士団にも選ばれていた、相当の手練れなんだ」
彼らとの会話を反芻する。
今、インプ・ラ・キャブラ、訳して『インプ』ついて分かっていること。
「ジョブは元【
【
「
「優先度でしょうな。
3番目のおっさんは言う。
「ああ、称号はもっと特殊なんで。」
「ごく稀に、称号一つがぶっ飛んでるってお方も。例えば……」
「
3人は同時に頷いた。
「まあ、称号に関して言えば、成るようになれって感じですし」
余計に、勝機が薄くなっていくんだが。
それとは反対に、森はだんだんと茂っていた。
外目で見たより、ずっと森は深い。相変わらず、毒々しい木々たちが枝を伸ばしており、紫とオレンジが嫌に視覚を刺激してくる。
「こんなところで住んでいる人たちって……」
良い印書は抱けないな。
「そうか、山賊だもんな」
……、と。
「アンタ、文字を見なかったのかい?」
人の声……、山賊?
「見なかったはずは無い、あれは必ず見えるようになってるから。いや、でも有り得ない……」
有り得ない……、それは同意見だった。
この字面を見る限り、場所も含め間違いないのだろう。では、本当に山賊なのか。
「アンタ、【
「女の子なのか?」
それは聞くまでもなかった。
声の主は、目の前に着地する。スカーフがなびいて、程よく焼けた頬が見えた。
「だったら、何だよ?」
彼女は不機嫌そうに言った。
気が強そう、あっ。無理。
「いや、何でもないです」
端整な顔立ちで、それでいて男らしい。それはどことなく、あの人を思わせ……。
なによ、じろじろと。
「私の顔、何かついてる?」
いや、一瞬だが重なった。驚いた。
「で、アンタ。ジョブも無い、称号もざっと見て無さそう。そもそも、才も無さそうだし」
「え?」
一つ目のジョブは、仕方ない。
称号も、分かる。
ただ、才もないとは聞き捨てならないぞ。何の根拠があって……。
「【王都】に来るまでに、一つは持っておくのが、当たり前。途中、こうやって襲われるかもしれないし、第一【王都】でのアピールポイント何だから。何も、聞いてないの?」
ええ、スライムでも理解できるはずですが。
「ああもう、止め」
「はい?」
「はい、じゃない。早く、帰って」
いやいや、それじゃあ何しにここまで来たのか。
「まさかアンタ、自分の矜持だ、立つ瀬が無いだって言って死んでいくの? そう言う奴はわんさかいた、皆、私止まりよ」
「分からないだろ、やってみなくちゃ」
その瞬間、彼女の目は変わった。
鋭いだけ、じゃない。殺すという、明確な意思表示だった。
「それでも、僕は」
立ち止まっては、いけない。そう思い、思い切り右足を踏み切った。
ガチャンッ、何かを踏み抜いた音。
【山賊の七つ道具:
右足に、獣に思い切り噛み突かれたような、痛み。ダメージは、ない?
「本来は、致死量の毒を塗っておいているものよ」
その声が、とおのく。
これが
恐らく、【
「盗賊の七つ道具……」
その声に呼応するように、罠が溶けていく。
【山賊の七つ道具:
「見なさいよ、罠は外れているわ」
そう言う彼女の手に、吹き矢。
つまり盗賊の能力は、臨機応変に物体を生み出すことができるというもの。
【山賊の七つ道具:
「これは至近距離専用」
銀の刃が、彼女の甲から伸びる。所謂、手甲鉤という奴か。
「これが所謂、ソードブレイカーね」
手甲鉤の次は、ソードブレイカーまで。
罠、毒吹き矢、手甲鉤、ソードブレイカー……、まだ4つ。あと、3つ。
「解ったでしょう。あんなこけおどしでこの程度」
そのセリフで確信に変わった。
彼女は、見せびらかしているのだ。
何故って、叩き潰すために。もう二度と、馬鹿なことは考えないように。
どうして? どうしてそこまでしなくちゃいけないの?
「おーーい、トレイダァァァ!!」
この世界に動物が存在するなら。
僕はその怒号を、トラの雄たけびか何かと勘違いしたのかもしれない。
少女は気まずい表情になる。
「あちゃー、遊び過ぎたか」
あれ、思ったより軽いな。
「時間をかけ過ぎだろ」
「だって……。力を叩きこめ、見せつけろ。泣かせちまえ。馬鹿なことは考えさせないように。そう言ったのは、頭だろ?」
「にしたってなあ」
男は目の前にいた。
彼女と同じで、音が無い一瞬だ。ただ、彼女よりも数倍でかく、その大きさは僕の2倍はある。そんな男と、少女が、正面切って睨みあっている。
「兎に角、奥に戻るぞ」
「ヘイ」
力の無い返事に、彼は頷く。
「俺の名は、インプ・ラ・キャブラ。此処の頭をやっている者だ」
ええ、存じ上げておりますとも。
「そして、私がトレイダ。インプ・ラ・トレイダよ。よろしく」
ああ、ご親族。
その年齢差からして、親子と言ったところか。
「えっと、僕の名前はっ……」
あれ、言わせてくれないの?
次の瞬間、手刀が首筋を奇麗にとらえていた。
「じゃあ、後でね」
彼女の声が残響する。
なあ、頭。コイツ、大したモン持ってねえなあ。まあ、みりゃあ分かるさ。けど、お前がそう言うときは大概、何かあるときだぜ。ガハハッ。ああ、面白いもんがある。
くすぐったい、中を触られている。
その不思議な感覚は、多分ドラえもんに語らせるのが早いのかもしれない。
「ほら、鍵だ。書いてあるぜ、ドワーフの野郎どもの奴だなあ」
「何? こんな奴がそんなもん持ってんのか。そりゃあ当たりだなあ」
「これで、叩き潰せるな」
「ああ」
……、?
「待ってくれ、こいつまだ何か。奥だ、ずっと奥のほうだ、なんだこりゃあ。得体が知れねえ、触ったことが無い、質感が近い。逃げる? こいつ、逃げているのか?」
「おい、鍵を寄こせ」
駄目だ、それは。
「よし、今日中にでも奴らの場所に行こう。場所は、丁度良いのが転がってるじゃねえか」
ガツンッ、蹴りが入った。
「おい、場所を案内しろ」
キャブラは、玉座に見立てた木の窪みに座っていた。
此処は広間、周りをぐるりと木が囲む。
明かりのたいまつが、彼の傷だらけの顔を灯す。歴戦の兵士、そう言った印象だった。
「何ボヤついてる」
再び蹴りが入る、背後のトレイダだった。
囲まれている。
木々の至る所から、目が光っている。そうか、彼らの巣窟。
「嫌だ。嫌です」
情けない声だなあ。そう、自分で思った。
「じゃあ、直々に教えてやろうか」
トレイダが下がり、キャブラ自らが正面に立つ。
「【盗賊の七つ道具……」
彼の手の中で、光が形を成す。
「
銀色に光る、箱形の武器。
それは中世ローマには有り得ないはずの、文明の特異点では無いのか?
「驚かないなあ、変に肝が据わっている」
いや、初見じゃないからさ。
ただ、絶望する。これなら多少の距離を離しても……。
バンッツ、だ。
「おい、おい。しっかりしろよ!」
「あーらま、頭やっちゃったー」
「うるせえ。嘘だろ、一発や二発ぐらい、しかも急所は外してあるはずだ。脆過ぎだろ!!」
変にコメディ染みた、やり取りに看取られる。
〔死因:派生ジョブ【盗賊】特有のスキル 【盗賊の七つ道具:
今までで、一番明晰だった。
「助けてって、言えば良いじゃない」
聞き慣れた声。
聞こえただけで、心が和む。
「恥ずかしいのかもしれない、思い至らなかったのかな? どれにしろ、私はその声一つで飛んでいくわ。ただね、勝手に助かるのは良くないわ。助かるのなら、しっかり助かって。貴方の所為で、助かって」
ぼうっとして、頭には入らなかった。
ただ、助けてくれる人がいる。それがボロボロの心に、融けていく。
「お客さん、またかかっちまったね」
1人目のおっさんは、そう言って笑った。
「駄目でした」
僕もつられて苦笑する。
「云われたんだ、お前には才が無いって。あいつら、冒険者志望の心を折って、二度と馬鹿な考えは持たないようにって」
「ああ、やっぱり」
2番目のおっさんは、悔しそうに言った。
「それは分かっていたことです。アイツラは、いやキャブラは憂さ晴らしをしている、けれど確かに。ヤツを倒せない奴に、此処から先何て」
しまったという風に、3番目のおっさんは僕を見る。
才は無い。
可能性も、ない。
「いや、良いんです。その通りですから」
不甲斐ない気持ちに襲われて、拳を握る。その拳に、彼らの鍵は、ない……。
あっ、そうだった。
「奴らが、奴らが此処に来る!」
3人の動きが、止まる。
「え?」
「どうして?」
「どうすれば良いんだ?」
いや、ある意味、息ピッタリだ。
「奴等、何故か僕の鍵を奪ってて。ええ、中を探られたのかなって。けれど、実物が無いはずの鍵を、どうやって!?」
動転する、考えれば考えるほど、確かに不可解であった。
「派生する前のジョブ、【盗賊】のスキルか?」
「違う、それは簡単な効果バフぐらいだ。身体強化とか……」
音もない登場、あれか。
「多分、考えても仕方ないと思いますぜ。今は、此処が襲われることを考えるべきだ」
「いや、場所はまだ……」
僕の咄嗟の一言に、1人目のおっさんは言う。ドワーフの、力強い目だった。
「何言ってんですか、それこそが」
【盗賊】の、本領でしょうが。
「何処にいるの? 一言、一言言ってくれればいいのに」
彼女は鬱蒼と茂る森の中、彼を探していた。
「どうして、皆、考えるべきところを考えず。一択に悩むのかしら」
その一瞬が、物語の結末を分かつのに。
それは貴方が、選ぶべきもの……。
「戦うよ」
僕は高らかに宣言した、つもりだ。
声が震えている、足がすくむ。けれど、立ち止まってはだめだ。
まして、後ろを振り返ってなど。
「復活を、ツケにしてくれ。そうすれば僕は、何度でも復活することができる」
【後書きより、引用】
_「次回、神に最も近い彼女(ヒト)」
嘘です、多分、ふざけた題名を付けてると思います、また。
愚痴るようですが、我ながら進捗が遅い……。
本当は前回で、キャブラを倒しているイメージだったのに。気付いたら、次回になってる……。
どうしたものか、まあ、自分のペースでやっていきます。
だからどうか、見捨てないでください! お願い!
【ネタバレ枠】
「助かることにも責任はある」
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