2.ほぼ∞回目+2回目

 息子が憎い訳では無かった……と思う。

 全て息子の為にやった事だった……と思う。

 でも、全ては他人の記憶でも覗いているように、明瞭でありながら、何かの……そう『実感』とでも云うものを欠いている。

 いや、既に死んでいるので、ある意味で「前世」の記憶なのか。「前世」の記憶であれば、仮に思い出す事が出来たとしても、こんな風に、自分の記憶なのに自分の記憶でないような不思議な感じになるのかも知れない。

 閻魔様の前に連行されるまでの間、私の脳裏には、そんなとりとめも無い考えが浮かんでは消えていった。

 私の前に、閻魔様の裁きを受けている女の子が、何故か、私を見て、恐怖の叫びを上げ……そして消えた。

 あんな年端もいかない子供が、何か罪を犯したのだろうか?それにしても、どこかで見た気がする子だが……。

 ひょっとしたら、私の息子が殺した女の子も、死の直前に、あんな風に泣き叫んだのかも知れない。

 田舎の名家の当主である事以外に何一つ誇りを持てるモノが無く、「女は大学になんか行く必要など無い」と云うあの世代でも古臭い考えを持っていた私の父親。

 そして、私は「『家』の存続」と云う、これまた、あの頃であっても古臭い理由で、二〇(はたち)になった途端に、愛してもいない男と結婚させられた。

 考えてみれば、夫も、愛しても無い女と結婚する羽目になり、旧弊な田舎の旧家の婿養子という肩身の狭い好きな事一つ出来ぬ立場で一生を終えたのだ。生きている内に、一度ぐらいは優しい言葉をかけるべきだったかも知れない。

 そして、せめて、息子だけには、私と違って、自分の人生を選択できる力を与えてやりたい……その想いは空回りした挙句、息子の人生を狂わせ、一人の罪の無い少女の命を奪ったようだ。

 父親が私の人生を狂わせたのは確かだが、私は父親がやったのと似てはいるが、より酷い真似をしてしまった。せめて、もう一度、人生をやりなおせるなら……。

「そなたは多くの罪を犯したが、地獄・修羅・餓鬼・畜生に生まれ変わらねばならぬ程の罪では無い。しかし、罪は罪なので天道に行く事も、成仏する事も出来ぬ」

 閻魔様は、おごそかに告げた。

「では、人間に生まれ変わるのですか……。次は、どのような人生なのでしょうか?」

「実は、そなたの来世は、そなたが生まれる前から決っておった。残念ながら、そなたは、今回の人生で、その決定を覆せるだけの功徳を積まなかった」

「そうですか……。あれだけの事を引き起こしながら、人に生まれ変われるのでしたら……次は、今回と同じ間違いはしないよう願うばかりです」

「ところで、そなたの命は不当に奪われたものだ。それ故、そなたが望めば、代りに誰かの命を奪う機会を与えよう」

「えっ?」

「そなたは、そなたの息子が殺した少女の霊により命を奪われたのだ。そなたは病死だと思っているようだが、実は違う」

 何故?でも、私があの女の子の立場だったら……。いや、しかし……。

 頭が混乱する。

「息子も、あの女の子の霊に憑り殺されたか……憑り殺される事になるのでしょうか?」

「いや、あの少女は、そなたの息子は許したようだ」

 何故だろう。何故、心が怒りに満たされるのだろう……。

 駄目だ。息子を叱りつけ、殴り、食事を抜いた時と同じだ。駄目だと判っているのに、いけない事だと判っているのに、私の口は呪いの言葉を吐いてしまう。

「誰も殺す必要など有りません。ただ……」

「ただ?何かな?」

「叶いますならば、あの女の子を私の息子に生まれ変わらせて下さい。そして、前世の自分自身を殺して、死刑になる運命を与えて下さい」

「あの少女の来世は既に決っておる。だが、あの少女が、次の人生で己が運命を覆すだけの功徳を積めなかったのなら……そなたの願いは叶うであろう」

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