第71話 私、ちょっとヒロインみたい?
「ハアッ、ハアッ……!」
息が苦しい。足は重く、感覚もだんだんなくなってきてる。
それでも、私は走らないといけない。私を逃がす為に、体を、命を張ってくれた人達の為にも!
背後から、徐々に足音が近付いてくる。黒装束達は、二人ともやられてしまったのだろうか。
でも、追い付かれる前に、国境近くに来てるっていう迎えと合流出来れば……!
「キャッ……!」
そう思った時だった。足をもつらせ、私は思い切り転んでしまった。
掌に、膝に、酷い痛みが走る。けれどそれを気にしている余裕は、私にはなかった。
私の周りを、武装集団が取り囲んでいく。ぐっ……これじゃもう逃げられない……!
「全く、面倒をかけさせてくれる」
集団のうち一人、特にかっちりと武装したリーダーっぽい男が、前に進み出て言った。
「さあご令嬢を連れて行け。抵抗するようなら多少痛めつけても構わん」
「はっ!」
「……っ!」
号令と共に、私に群がりだす武装集団。……ごめんなさい、シエル、皆。頑張ったけど、私、ここまでみたい……。
「お姉様から……離れなさいっ!!」
突然可憐な、それでいて凜々しい声が辺りに響き渡った。私を除く、その場にいた全員が慌てて辺りを見回しだす。
この声は……忘れない、間違えたりなんてしない……!
「ぶべ!?」
武装集団の一人が、突然前につんのめって倒れる。同時に拳大の石が、地面にごろりと転がる。
「だ、誰だ!?」
「ハアッ!!」
うろたえる武装集団達を黙らせるように、新たに現れた集団が、武装集団を木剣で次々と叩き伏せていく。その顔は、私が見知ったものばかりだった。
「ジェフリー、リオン、ロイド! それにディアスも……!」
「ああ! 全く無茶をする女だ、お前は!」
言ってジェフリーが、また一人の敵を叩き伏せる。他三人の動きも、連携も、急造のはずなのに見事なものだった。
……乙女ゲームの攻略対象達が、力を合わせて私を守ってる……いやいや前世の記憶、この豪華すぎるシチュエーションに悶えてる場合じゃないってば!
皆が戦ってくれてる今のうちに、ここから離れなくちゃ。私は重い体に力を込め、痛みをこらえて立ち上がった。
けれど。
「逃がすか、この小娘……!」
「キャッ!?」
武装集団のリーダーが、私の腕を強く掴んできた。私は必死に振りほどこうとするけど、リーダーの力は強く、全く離れようとしない。
「離して……!」
「おいお前ら、この小娘を殺されたくなければ……」
「……お姉様から……」
その時リーダーの声を遮るように、また可憐な声がした。そして。
「離れろと言っているでしょうが、このアンポンタンっ!」
「ごほおっ!?」
リーダーの背後から忍び寄っていたシエルによる金的が、見事にリーダーにクリーンヒットしたのだった。
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