第70話 目的地間近で追い付かれるのはお約束

 それから私達は夜を徹して森を抜け、林を抜け、私の国を目指した。授業やリオンのダイエットで運動はしていたけど、その程度の運動量じゃこの行程はキツく、正直何度も音を上げかけた。

 それでも、私の帰りを待っていてくれる人達がいるんだという思いを支えに、決して足を止める事はなかった。


「……大したお嬢様だ。本当に国境まで、泣き言一つ言わずについてきた」


 そんな私に、黒装束Aが感心したように言う。名前を聞いてみたけど、これっきり会う事もないからと、二人とも頑なに教えてはくれなかった。


「私は帰らなきゃいけないんだもの。当然よ」

「そんなに国が恋しいか?」

「それもあるけど……王子や貴方達のしてくれた事を、無駄にする訳にはいかないでしょ? 私には、貴方達に報いる責任があるのよ」


 私の答えに、二人は顔を見合わせ。そして、しみじみと嘆息した。


「……本当に惜しい。お前は間違いなく、人の上に立てる器だ」

「ああ。国に連れ帰るのを止めてしまいたくなる」

「でも貴方達は本当に止めたりはしないわ。それが王子との約束だもの」

「……全く。本当に、これ以上王子を裏切りたくなるような事を言わないでもらいたいな」


 苦笑する二人に笑みを返したところで、遠くに国境の明かりが見えた。私は胸に広がる安堵と共に、残された力を振り絞る。


 ――その、次の瞬間だった。


「止まれ」


 突如背後から、声が響いた。同時に、何かが空気を切り裂く音。


「ぐうっ!」

「!!」


 うめき声をあげ、黒装束Bがうずくまる。見るとその腕に、一本の矢が突き立っていた。

 混乱する私の前に、武装した集団がわらわらと現れる。それを見た黒装束Aが、即座に剣を抜いて叫んだ。


「走れ!」

「で、でも」

「いいから走れ!」


 そう言って、黒装束Aが武装集団に向かっていく。遅れて黒装束Bも、腕の矢をそのままに剣を抜いた。

 ……きっとこの集団は、私達に向けられた追っ手だ。なら私が捕まったら、総てが水の泡になる。

 私が彼らの為に出来る、唯一の事は――。


「……死なないでよ!」


 二人を振り返らず、私は全速力でその場から逃げ出した。

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