第69話 ディアルマの覚悟
中庭を抜け、城を抜け、近くの森まで走り抜けたところで、黒装束の二人はやっと足を止める。ようやく話す余裕が出来たのを見て、私はなるべく大きすぎない声で言った。
「ちょっと! どういうつもりよ!」
「……何がだ」
「ディアルマ王子を傷付けた事よ!」
私が指摘すると、唯一見える目が少しだけ、悲しそうに歪んだ。それを見て、私は更に畳みかける。
「王子は貴方達にとって、唯一従う相手なんじゃなかったの!? それなのに……!」
「……そのディアルマ様からの命令だ」
すると私を担いでいない方の黒装束が、淡々と言った。けれどもその瞳には、後悔の色が滲み出ている。
「お前を城の外に連れ出すには、ディアルマ様と二人きりになったところを襲撃者に襲わせ、さらわせるという形を取るしかなかった。そして無抵抗ではなかったという、証拠も必要だった」
「……だから王子は、自分を傷付けるように?」
私の問いに、二人は答えなかった。けれどもその沈黙こそが、彼らの肯定なのだと悟った。
……自分が傷付く事すら
「……貴方達も辛かったのに、責めたりしてごめんなさい。行きましょう。ここからは貴方達の体力の節約の為に、自分の足で走るわ」
覚悟を決め直して告げると、二人が呆気に取られたようになる。それが不満で、私は思わず眉根を寄せた。
「……何よ。せっかく人がやる気を出してるのに」
「い、いや……アンタ、本当に変わったご令嬢だな……命令がなきゃ、本当にディアルマ様の嫁に欲しかったくらいだ……」
「お生憎様。……私、もう、心に決めた人がいるの」
そう。こんな事になって、ようやく解った。私はただ、国に帰りたい訳じゃない。
私が帰りたいのは、私を待っててくれる、私を愛してくれる人のいる、そんな――。
(待っててね、シエル。帰ったら、私、貴方に伝えたい事があるから――)
私を抱えていた男が、私を地面に下ろす。大地を踏み締める感覚をしっかりと確かめながら、私は、強くそう決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます