第67話 昼行灯はフィクションだと大抵切れ者

 それから三日間、私はひたすら情報収集にいそしんだ。見張りの兵や侍女達も、私がディアルマ王子の事を聞くと素直に答えてくれた。

 まずディアルマ王子が側室の子というのは本当らしい。それが元で父や、兄達に疎まれているというのも。

 そして周囲も、そんなディアルマ王子を軽んじているようだった。王族のくせに城下で遊び呆けてばかりいる放蕩王子と、皆が口を揃えてそう言った。

 成る程、そんな王子だから、せめて政略結婚に役立ってくれたらそれでいいって事ね。中にはあんな王子の妃になるなんて可哀想と、私に同情してくる人までいた。


 私は思った。このクーデターは成功する。


 城の人間は、ディアルマ王子をすっかり軽く見ている。他ならぬ王子自身の手で、そう思わされているなど思いもせずに。

 王子が城下をよく訪れているのは、多分、民衆を味方に引き込む為だ。侍女達の話では、城の中と外とでは、生活水準が天と地ほども違うらしい。民衆が王に不満を持っていても、おかしくはないだろう。

 加えてこの国は最近大きな戦を終えたばかりで、兵達も疲弊しているという。まさに反乱して下さいと言わんばかりの、絶好の条件が揃っている。


 ここまで聞いて、私はディアルマ王子の事を信用する事に決めた。

 国を変えたい、父や兄に復讐したい。それ以外の思惑は、確かにあるのかもしれない。

 けど王子は、計画が外に漏れる危険があるのを承知の上で、私を国に帰すと言ったのだ。何の縁もゆかりもない私を、巻き込むまいとしたのだ。

 その覚悟を、私は、信じようと思った。



「王子。私を国に帰して下さい」


 初めて会った日から三日後。再び現れたディアルマ王子に身を寄せ、私は小声でそう告げた。


「……どうやら僕は、貴女の信用を勝ち得たようですね」

「ええ。貴方に従います」

「解りました。貴女を必ず無事に国に帰すと、このディアルマ、貴女の可憐な騎士ナイト殿にかけて誓いましょう」

「!!」


 悪戯っぽく言われた言葉に、私は思わず頬を熱くする。こ、この人、何でシエルの事知って……!


「ふふ。失礼ながらこの三日間、僕も貴女の事を調べさせてもらいました。ああ、もちろん口外をするつもりはありませんからご安心を」


 こ、この人……本当に食えないわ! 本当に味方で良かった……。


「さて、今すぐ帰して差し上げたいのは山々ですが、こちらも色々と準備をせねばなりません。少しお時間を頂きますがよろしいですか?」

「ええ、構いません」

「では、準備が整いましたら、また会いに来ます」


 そう言うと、王子は私から離れ、部屋を出た。待っててね、シエル……私、必ず貴方の元に帰るから!

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