第53話 何事もまずは基礎から
翌日。丁度学園が休みだった事もあり、私達は早速リオンのダイエットに取りかかる事にした。私とシエルは城に着くと学園の運動着に着替え、中庭でジェフリーがリオンを連れてくるのを待った。
「待たせたな」
やがてそう声がして、運動着姿のジェフリーが姿を現した。その後ろでは……。
「……うぅ……」
……ぱつぱつになった運動着を着たリオンが、所在無さげに立っていた。良かった、とりあえず部屋から出る気にはなってくれたみたい。
「良かった。お待ちしておりましたわ、リオン様」
髪をポニーテールに結ったシエルが微笑みかけると、リオンは途端に顔を赤くして俯いてしまった。……こんな姿になっても、現金なのは変わらないのね……。
「さあ、今日から元の体型に戻るまで徹底的に体を絞るわよ、リオン」
「は、はい……元に戻れば、本当に婚約破棄は思い直してくれるんですね、カタリナ」
「ええ、ちゃんと考えるわ」
縋るような目で見てくるリオンに、私はしっかりと頷き返す。そんな私の耳元で、シエルがこっそり囁いた。
「……お姉様、本当に婚約破棄を撤回するんですの?」
「私は『考える』と言っただけよ。撤回するとは一言も言ってないわ」
「……悪くなられましたわね、お姉様」
何とでも言って頂戴。これが悪役令嬢としての、本来の生き様ってものよ。
「俺も付き合うからさっさと痩せるぞ、兄上。第一王位継承者としてこれ以上情けない姿を晒すのは、この俺が許さん」
「……」
腕組みをし、ふんぞり返るジェフリーを、リオンが不意にジッと見るそして、少しだけ柔らかい笑みを浮かべる。
「……お前は、私を嫌っていた訳ではなかったのですね」
「フン、勘違いするな。相手が強い方が、叩き潰し甲斐があるというだけだ」
「ふふ……お前という人間を、少し誤解していたようです」
それは私やジェフリーのよく知る形式的な笑みとは違う、人間らしい素直な笑みで。私とジェフリーは、思わず揃って面食らった。
……そういえば
「さぁ、お姉様、まずは何をなさいます?」
シエルの声に、ハッと我に返る。……いけない、物思いに浸ってる場合じゃないわね。
「まずはしっかりと準備運動。それから基本の走り込みよ。いいわね!」
「おー!」
私の号令に合わせ、その場にいた全員が一斉に準備運動を始めた。
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