第50話 第一王子、再び

「カタリナ様、ジェフリー様がお見えになりました」

「は?」


 メイドが私にそう告げたのは、冬を間近に控えたある日曜の事だった。


「ジェフリーが? ここに?」

「はい」


 告げられた名前に、私は思わず耳を疑う。ジェフリーが私用でうちに来た事なんて、今まで一度もなかったのに。

 そもそも私達って、学園で毎日顔を合わせてるんだけど。……学園ではしにくい話、という事かしら?


「解ったわ。すぐ行くと伝えて頂戴」

「かしこまりました」


 突然の事に疑問を抱きながらも、私は適当な来客用ドレスを見繕う事にした。



「来てくれたか、カタリナ」


 応接間の扉を開けると、真剣な顔付きのジェフリーが出迎えた。そしてもう一人……。


「……シエル?」


 そこにはソファーに座る、シエルの姿があった。何? どういう事?


「お姉様も呼ばれたのですか?」

「ジェフリー、これは一体どういう事なの?」

「まぁ座れ。順を追って説明する」


 言われるがままに、私はシエルの隣に座る。ジェフリーは私達の向かいに座り、真剣な表情を崩さず話し始めた。


「実は、今日はお前達に頼みがあって来た」

「頼み?」

「……うちの馬鹿兄の事を覚えているか」


 言われた言葉に、目を瞬かせる。ジェフリーが兄と呼ぶと言えば、ジェフリーの双子の兄でありこの国の第一王子であり私の元婚約者、リオンをおいて他ならない。

 そういえばあれから一度も、リオンの姿を見ないわね。まさか私に婚約破棄されたショックから、まだ立ち直れていないのかしら?


「まぁ、忘れてはいないわね。リオンがどうかしたの?」

「……恥を忍んで頼むが、アイツを部屋から出す手伝いをして欲しい」

「は?」


 思わず口をあんぐりと開け、固まってしまう私とシエル。ど、道理で姿を見ないと思ったら、まさか引きこもりにまで発展してたの!?


「ち、ちょっと待って。私との婚約破棄が、そこまでショックだった訳?」

「いや、それも確かにあるんだが……その、何と言うか……」


 物事をハッキリと言うタイプのジェフリーにしては珍しく、何だか妙に歯切れが悪い。そ、そんなに深刻な状況になってる訳……?


「……とにかく、今から俺と共に城まで来て欲しい。お前達ならもしかしたら、アイツを部屋から叩き出せるかもしれん」

「……どうなさいます、お姉様?」


 二人の視線が、私に集中する。私はこめかみを指で押さえながら、深い溜息を吐いて言った。


「……解ったわ。でもあまり当てにはしないで頂戴ね?」

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