第47話 策略、密室、二人きり

「珍しいわね。相談したい事があるなんて」


 前を歩く友人のカタリナに私、ミリアム・イネスはそう言った。


「ごめんなさい。親友の貴女でないと、相談出来ない事なの」

「いいわよ。私もこの前話を聞いて貰ったもの」


 申し訳無さそうにこちらを振り返るカタリナに、笑って首を横に振り返す。本当に、カタリナときたら律儀な事だ。

 私が彼女に、ずっと抑えていた兄さんへの想いを吐き出したのはついこの間の事。カタリナは驚いた様子を見せながらも、黙って話を聞いていてくれた。

 その事には、感謝しかない。義理のとは言え、自分の兄に焦がれるなんてあってはならない事だもの。

 だから今度は、私がカタリナの力になる番だわ。どんな相談だったとしても、受け止めてみせる。


「今開けるわ。先に入って」


 やがてカタリナは、開かずの教室の前で立ち止まった。そしてあちらこちらに触れ、扉を開けてみせてしまう。

 その事に驚きながら教室の中に入ると、そこには先客がいた。こちらの気配に気付いて振り返ったその顔に、私は驚きの声を上げてしまう。


「……兄さん!?」

「ミリアム……!?」


 そこにいたのは見間違える筈もない、使用人クラスの教師を務めるマリク兄さんだった。突然の事に、私はいつもの冷徹な仮面を貼り付けるのも忘れてしまう。


「に、兄さんがどうしてここに……」

「お前こそ……私は生徒から相談があると呼び出されて……」


 ――ピシャリ。


「!?」


 戸惑う私達の耳に、扉が閉められる音が響く。慌てて兄さんが扉に駆け寄り手をかけるけど、固く閉ざされた扉は動く気配がない。


「……駄目だ。閉じ込められた……」

「そんな……」


 告げられた言葉に、顔から血の気が引いていく。私は兄さんの横に並び、声を限りに叫んだ。


「ねえカタリナ、冗談は止めて! ここから出して頂戴!」


 何度も扉を叩き、懇願する。けど扉の向こうからは、何の反応も返ってくる事はなかった。


「カタリナ……どうしてこんな事を……」

「落ち着け、ミリアム。私達が戻らなければ、きっと他の者が探しに来る。それまで待てばいい」

「……」


 ……兄さんの言う通りだわ。ここでただ暴れても、いたずらに体力を消耗するだけ。ここはひとまず、大人しく助けを待つしかないみたい。


(……ん?)


 けれど、その時私は気付く。気付いてしまう。ここに助けが来る、その時までは……。


(兄さんと、二人きり……?)


 そう自覚した瞬間。胸が大きく高鳴るのを、私は感じた。

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