第46話 二人寄れば文殊の知恵

 こうして、ミリアムとマリクの想いを成就させるべく自分の部屋で計画を練り始めた私だったけど……。


「……うーん……」


 その計画は、早速暗礁に乗り上げていた。

 何せ、張り切ってはみたものの私に恋愛経験はない。前世も無類の乙女ゲームマニアだったものの現実での恋愛経験はない、いわゆる喪女という存在だった。

 つまり……いい方法がまっったく浮かばないのである。


「キューピッド役って、難しい……」


 自ら呼び込んだ無理難題に、思わず頭を抱える。こういう時選択肢で道を示してくれた乙女ゲームが、いかにイージーモードだったか実感する。

 それどころかセーブもない。ロードもない。周回プレイすらもない。一回失敗したら、もうそれまでだ。

 あああ……こんな時どうしたらいいのよ!?


 ――コン、コン。


「ん?」


 煮詰まって枕に頭を埋めたその瞬間、不意にノックの音が聞こえて私は顔を上げ直す。いつの間にか、夕食の時間になっていたのかしら?

 のろのろと身を起こし、ドアを開ける。するとそこにいたのは、意外な人物だった。


「……シエル」

「お姉様、今よろしいですか?」


 シエルは真摯な目で、私をジッと見上げてくる。私は少し迷ったけど、小さく頷いて道を開けた。


「いいわ。どうぞ」

「ありがとうございます」


 会釈をし、シエルが部屋の椅子に座る。私もテーブルを挟んで向かい合わせになるように座り、シエルの言葉を待った。


「……ミリアム様の事ですけれど」


 来た。シエルは、私がミリアムの事を詮索するのをよく思っていなかった。

 恐らくは、もう一度釘を刺しに来たんだろう。勿論、それで引き下がる私じゃないけど。


「これ以上詮索するなと言うんでしょう? でも私は……」

「逆です。……わたくしも、お姉様に協力する事に決めました」

「え?」


 けれどシエルの口から出たのは、これまた意外な言葉だった。あんなに私のする事に、いい顔をしていなかったのに……?


「どうして急に?」

「だってお姉様、わたくしが目を離すと何をしでかすか解らないでしょう?」

「なっ……」


 ちょっと、いくら何でもその言い草はないんじゃない? まぁ否定出来るかって言われたら出来ないんだけど!


「なら、放置して大惨事を起こされるよりはいっそ協力して、わたくしがいい結果に導いた方がいいと思ったのです。わたくしの方が、お姉様よりは頭も回りますもの」


 うう……おのれ言いたい放題……いや言い返せない私にも問題はあるけれど!

 それに、動機が何であれシエルの協力が得られるなら心強いわ。シエルは私より、恋愛について詳しい筈だもの。


「……それに……ですね」


 そう思っていると、急にシエルが言葉を濁し始めた。突然の事に、私はついマジマジとシエルを見てしまう。


「どうしたの、シエル」

「その……ミリアム様は、わたくしの友人でもありますから……」

「……!」


 モジモジしながらシエルが言った一言に、私は大きく目を見開く。……シエルがミリアムの事を、そんな風に思ってくれていたなんて。

 嬉しくて、自然と笑みが零れる。私の好きな人同士が友達同士になってくれるなんて、こんなに嬉しい事はない。


「ありがとう、シエル。必ずミリアムの悩みを解決しましょう!」

「はい、お姉様!」


 私とシエルは互いに頷き合い、そう誓い合った。

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