第45話 間違ってるのは正史(シナリオ)の方よ

「……それで、話とは何だ」


 生徒指導室で二人きりになるなり、マリクは私を振り返りそう言った。私は覚悟を決め、話を切り出す。


「……先生が家を出るつもりだとお聞きしました」

「もう生徒の間にまで広まっているのか。……いずれ解る事だ、否定はしない。その噂は真実だ」

「いいのですか?」

「何がだ?」

「このままミリアムと離れてしまって、本当にいいのですか?」


 私の問いに、予想通り、マリクの顔色が変わる。……やっぱり、マリクは、ミリアムとの仲がギクシャクしたままなのを良いと思ってる訳じゃないのよ。


「……君には関係の無い事だ」

「いいえ、あります。ミリアムは私の友人です。友人の身を案じる事は、例え兄である貴方でも否定出来ない筈」

「……っ、ミリアムは私を嫌っている」

「それは家を出る貴方を想うが故、貴方の負担にならない為の、彼女なりの思いやりです。彼女は本当は、先生を嫌ってなどいません」

「そっちの方が困るんだ!」


 けれど突然声を荒げたマリクに、私は身を震わせてしまう。マリクは眉根を寄せ、吐き出すように続ける。


「嫌われていると思っていたから、今まで自分を抑えていられたんだ。もしあの子が私を好きだなどと、そんな風に思ってしまったら――!」

「……先生?」

「っ……喋りすぎたな。とにかく友人だろうと何だろうと、私達兄妹の関係に口出しは無用だ、いいな」


 最後にそう言うと、マリクは取り乱した様子のまま生徒指導室を出た。私は何も言えず、ただそれを見送った。

 ……ハッキリと確信した。マリクもまた、ミリアムを一人の女性として愛していると。

 二人の気持ちが判明した今、もう悩む事はない。この世界では養子と実子の婚姻は成立しないけど、マリクが家を再興し養子縁組が解消されれば二人の間に障害はなくなる筈だ。

 ……正史マリクルートのマリクは、ミリアムを忘れる為にシエルを選んだのだろうか。前世の私はあれをハッピーエンドだと思ってたけど、その影でミリアムは泣き、マリクは不実な自分に苦しんでいたのかもしれない。

 本来なら結ばれる筈のない二人。私がそんな運命、ねじ曲げてへし折ってやるわ!

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