第43話 胸に秘めたるその想い
ひとまず情報は得たけれど、まだまだ解らない事だらけ。
マリクが養子だというのが、ミリアムがマリクを避けていた理由なのか。だと言うなら、マリクが家を出ようとしている今、何故ミリアムの様子がおかしくなったのか。
こうなれば……直接ミリアムに理由を問い質すしかないんじゃない?
「あの……お姉様」
そう思っていると、それまで黙って私についてきていたシエルが口を開いた。その真剣な面持ちに、つい私の身が引き締まる。
「どうしたの、シエル?」
「その……もう、止めませんか」
「止めるって何を?」
「ミリアム様の周りを嗅ぎ回るのを、です」
意外な言葉に、私は思わず目を見開いた。まさかシエルの口から、ミリアムを擁護する言葉が出るなんて思わなかった。
「……どうして、そう思うの?」
「人には知られたくない事の一つや二つあるものです。それはわたくしも、お姉様も例外ではない筈」
「そうね」
「ミリアム様にとっては、今お姉様が調べてらっしゃる事がそれなのではないでしょうか……?」
成る程、言いたい事は解る。ミリアムを心配するのはいいけど、詮索のし過ぎは良くないと。
でも……。
「でもそこで躊躇して、結果、取り返しのつかない事になったとしたら、私は踏み込まなかった事を一生後悔するわ」
「……!」
「例えおせっかいでも、結果的に嫌われる事になっても、最善を尽くしたいの。……あの子は、ミリアムは、私の一番の友達だから」
そう、自己満足かもしれない事なんて、自分が一番良く解ってる。それでも……それでも、ミリアムを一人で悩ませるような事はしたくないの。
「ここからは、私一人でやるわ。二人きりで話をする方が、ミリアムも話しやすいと思うから」
「……」
シエルはそれ以上は、私を引き止めようとはしなかった。
シエルを先に家に帰し、ミリアムの家へ向かう。急な来訪にもかかわらず、イネス伯爵家の人達は礼儀正しく私を迎えてくれた。
ミリアムは突然やってきた私に、胡乱げな表情を見せた。それでも無下に追い返さない程度には、私を友人と思ってくれているんだろう。
「……珍しいわね。貴女が家まで来るなんて」
「ちょっとね。学園じゃ出来ない話だったから」
メイドが出してくれた紅茶を一口飲み、渇いた喉を潤す。そして、私は、その一言を口にした。
「貴女を悩ませてるのは……マリク先生なの?」
「!!」
瞬間、ミリアムの顔色が一気に変わる。……やっぱり、推測は当たってたようだ。
「聞いたわ。マリク先生、この家を出るんですってね」
「……どうして、それを」
「だから貴女は悩んでいるの? ……お願い。話を聞くだけでも、私にさせて頂戴」
私がそう畳みかけると、ミリアムは目を伏せて俯いた。そしてぽつり、ぽつりと語り出す。
「……そうよ。私、あの人がいなくなるのが嫌なの」
「どうして? 貴女、マリク先生の事ずっと避けてたじゃない」
「ええ、避けてたわ」
「なら、何で……」
そう聞いた瞬間、ミリアムの瞳がぐにゃりと歪む。その瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れだした。
「だって……だってそうしないと、耐えられなかった」
「ミリアム……?」
「お兄様はいずれ、この家を出る人。私がそれを邪魔してはいけない。それなのに、『行かないで』と言いそうになる自分を、抑えられなかった……!」
この時、私は漸く気が付いた。ミリアムは、マリクが嫌いで避けていたんじゃない。
同時に一つ理解した。それは
マリクルートでは、ミリアムとの交流が攻略の鍵を握る。ミリアムにアシストされる形で、
もしかしてミリアムは、マリクへの想いを断ち切る為に
とても、胸が苦しくなった。ずっと側にいたのに、何も気付いてあげられなかった。
――ミリアムの想いを叶えてあげたい。例え、それが
「……ありがとう。初めてこの事を誰かに話して、少し胸が軽くなったわ。私は、もう、大丈夫だから……」
そう言って無理矢理笑顔を作るミリアムの姿は、とても痛々しかった。
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