第36話 隠し設定にしても重すぎない?

 翌日。個人の調査を終えた私達四人は、昼休みに校舎裏へと集まった。ちなみにミリアムは、用事があるとかで不参加だ。


「……集まったわね。それじゃ各自、報告を」

「解った。ではまず、俺から」


 最初に手を上げたのはジェフリー。ジェフリーは周囲に人影がない事を確認してから、声を潜めて言った。


「まず、奴の使用人という立場は偽りだな。本名はフレデリック・オーズ、紛う事なきオーズ伯爵の息子だ」


 それは王子であるジェフリーが調べれば、すぐ明らかになると思ってた。前世の記憶の中にある、ヨシュアエンドの情報とも一致してる。


「だが奴が何故使用人としてこの学園に通っていたかは不明だ。シエルのように家の事情があるなら解るが、オーズ伯爵家は至って円満で、わざと使用人のフリをせねばならんような理由は見当たらない」


 確かに、そこはヨシュアルート全体を通してもよく解らないところだった。本人の談によれば、処世術を学ぶ為という事だったけど……。

 ロイドの話を聞くまでは、それで納得してた、でも今は、どうもそれだけが理由のようには思えない。


「俺が調べられた事はここまでだ。次は誰だ?」

「あ、じゃあ次、俺な!」


 次に手を上げたのはロイド。ロイドはこの状況に少しワクワクしているのか、フンフンと鼻を鳴らしながら話し始めた。


「俺とヨシュアの共通のダチに、ちょっと色々聞いてみたんだ。そしたら妙な事が解ってさ」

「妙な事?」

「俺はアイツとはただの友達だから知らなかったんだけど、アイツ、一部の使用人には情報料として取引を持ちかけてたみたいなんだ」


 それは初耳だ。ゲームでのヨシュアは、無償で主人公に情報提供していたから。


「取引とは……金を取るのか? 流石にそれは、王族として見過ごせんぞ」

「いや、金は取ってない。何でも、『自分しか知らないその家の秘密』を教える事を要求されたって……」


 これは……前にシエルが言っていた、「家の情報を聞くなら使用人からがいい」に通じている気がする。という事は、ヨシュアも、他の家の情報を集める為に使用人のフリをしている?

 ……それは、一体何の為に?


「俺からはこんなとこかな。最後はディアスか」

「……そうだな……。俺は貴族の生徒達から情報を聞いたんだが、その……怯えた顔で聞いてもない事まで答えてくれた……」


 ……ああ、ディアスは強面だものね……。いや、強面は強面でも迫力美人、といった類ではあるんだけど……。


「それで? 成果は?」

「ああ、それなんだが……ヨシュアとかいう奴は、貴族の生徒の弱味を握って脅していたらしい……」

「!?」


 その場にいた全員が、一斉に息を飲む。それって……脅迫って事じゃない!


「その……ヨシュアは、どこからかそいつの知られたくない情報を見つけてきて、それをネタに自分の情報収集の手伝いをさせているらしい。色々な事を知ってるのは、だからだって話だ」


 成る程……これで話が見えてきた。まずヨシュアは使用人からその家の詳しい内情を聞く為、自分も使用人だと身分を偽り近付く。

 そこで得た情報を元に貴族を脅し、更に役立つ情報を手に入れる。それこそが、彼がヨシュアエンドで言っていた『処世術』……!

 なら、そんなヨシュアにシエルがべったりな理由は? 私との約束の事がある以上、シエルが彼にうちの内情を売っているとは考えにくい。ヨシュアが私に対し、ノータッチなままなのも変だ。

 となれば、考えられるのは……。


(シエル自身が、ヨシュアに脅されている……?)


 そうよ。それしか考えられない。

 シエルには、絶対に知られてはいけない秘密真の性別がある。それをもし、ヨシュアに知られてしまったのなら……!


「……カタリナ」


 唯一事情を知っているディアスが、同じ結論に辿り着いたのか私に視線を向けてくる。私はそれに、小さく頷き返した。


「ジェフリー、ロイド、ディアス!」

「な、何だ!?」


 突然声を上げた私に、ジェフリーとロイドが肩を跳ねさせる。それに構わず、私はこう宣言した。


「シエルをヨシュアの魔の手から救うわ……殴り込みよ!」

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