第30話 私の望まない決闘
そうして、決闘の時はあっという間にやってきた。
「な、何なのよ、この人だかり……」
中庭に特設されたステージの周りは、観客で溢れ返っていた。その多さに、思わず目眩がする。
「仕方ないわよ。貴女、この学園じゃもうすっかり有名人だもの」
唯一景品である私の側にいる事を許された、ミリアムの無慈悲な言葉が恨めしい。悔しいけど事実な辺り特に。
「好きで有名人になった訳じゃないわよ……」
「いいじゃない。退屈しなくて済んで」
「じゃあ替わって頂戴」
「生憎だけど私には荷が重いわ。私には、貴女ほどの度量がないもの」
皮肉を返してみるものの、ミリアムの態度は淡々としたもので。おのれ……完全に他人事だと思って……。
「それより、見て。そろそろ始まるみたいよ」
恨みたっぷりにミリアムを睨んでるとそう言われたので、仕方なくステージに視線を戻す。すると王家の正装を着たジェフリーが、ステージに上がってくるのが見えた。
「待たせたな! これよりこの俺、ジェフリー・ウィル・アストライアの立ち会いの元、シエル・アールマンとディアス・クロウ・フェルナンデスの決闘を執り行う!」
ジェフリーの宣言に、辺りが一斉に沸き立つ。その凄まじい熱気に、私は気圧されっぱなしだ。
本当に……私、これからどうなるのかしら……。
「両者、ステージへ!」
促され、シエルとヒョウタの二人がステージに上がる。ヒョウタはいつもの制服をラフに着崩した姿が嘘のような、キッチリとした正装。シエルも長い金髪を後ろで一つに纏め、ジェフリーにでも借りたのか、作り物の胸を除けば実に男らしい服装を身に纏っている。
そして両者の手には、演習用に先を丸めてあるレイピアが握られていた。
「ルールは簡単だ。先に『参った』と口にした方が負け。ステージ上から落ちても負けだ」
互いに頷き、ルールを了承する二人。私はそれを、ただ見つめる事しか出来ない。
勝った方のものになる気なんてさらさらないけど、それでも負けた方が、私から手を引くという決まりなのは間違いない。どっちが負けても、私は嬉しくなんてないのに。
――それでも。
それでも勝つのが一人だけなら――私はどっちに勝って欲しいの?
考えて、それが、馬鹿な疑問だと気付く。どっちも私にとっては友達で、同じくらい大事……な筈だ。その筈だ。
なのに、どうしてこんなに胸の奥がざわつくの?
「カタリナ」
不意に、ミリアムが私の名を呼ぶ。私はまだ少し混乱したまま、ミリアムに顔を向ける。
「不本意だろうけど、この勝負、しっかり見届けなさい。それが貴女の義務よ」
「……解ってる」
「それでは……始め!」
耳に痛い忠言と共に、遂に、決闘の幕が上がった。
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