第18話 これ以上の勘違いは勘弁して
ポカンとした顔で、ロイドが私達を見つめる。シエルもまた、驚きに目を見開いていた。
「……こういう事だから! 貴方の入る余地は、最初からないの!」
唇を離し、トドメとばかりにシエルを強く抱き締める。頬がだんだん熱くなっていくのが、自分でも解った。
「……そっか」
暫しの沈黙の後。ロイドが、ポツリと呟いた。
「シエルとそういう関係だから、アンタは婚約を破棄しようとしたんだな。シエルが俺を好きだってのは、本当に俺の勘違いだったんだな」
「……そうよ」
「ゴメンな、シエル。沢山迷惑かけちまったな」
そう言って笑ったロイドは、少し寂しそうで。その様子に、少しだけ胸が痛んだ。
「俺って、昔からこうでさ。すぐ早とちりして、周りに迷惑かけちまうの」
「ロイド様……」
「あ、シエル達の事は勿論、絶対誰にも言わないぜ。フラれたからって相手を傷付けるような、そんな女々しい男にはなりたくない」
私達が言う前に、ロイドはキッパリと言い切る。いっそ清々しさすら感じるその姿は、前世の記憶にあるモニター越しの彼そのままだった。
「じゃあな、二人とも。俺の事は忘れてくれ」
「……待って!」
背を向けこの場を去ろうとするロイドを、私は思わず引き止めていた。ロイドが、意外そうな顔をしてこちらを振り返る。
「え……?」
「その、シエルを貴方にあげる訳にはいかないけど……貴方と友人関係にはなれると思うの。私も、シエルも……」
「そうですわ。これからも本当のご友人として、仲良くして頂けると幸いです」
続けてシエルもそう言うと、ロイドの目が大きく見開かれる。そしてみるみるうちに、顔に喜色が広がっていった。
「……なぁ、それって……」
「ええ、私達は友だ……」
「俺達、これからは心友って事だよな!」
「は?」
いやいやいや。ちょっと待って。いくら何でも話が飛躍し過ぎじゃない?
しかもあれじゃない? 「しんゆう」のニュアンスが普通と違わない?
「互いに秘密を打ち明けあった心友……! くぅーっ、ずっと憧れだったんだよな!」
「あ、あの、ロイド様……」
「あ、俺が秘密を言わないのは不公平だよな! 実は俺……十歳までおねしょしてたんだ! 絶対、誰にも言わないでくれよな!」
「そういう問題じゃない」と激しくツッコみたい。ツッコみたいけど、ロイドがあまりにもイイ顔過ぎて何と言うべきか解らない。
「これからは心友としてよろしくな! シエル、カタリナ!」
「……ええ」
「……はい」
私とシエルは、ロイドの浮かべた満面の笑みに、死んだ目で頷く事しか出来なかった。
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