第17話 これってもしかして……「嫉妬」?
「よっ、来たぜシエル! ……ってあれ、一人じゃないのか?」
待ち合わせ場所の校舎裏で待つ事体感五分。駆け足で現れたロイドは、私を見るなりそうシエルに言った。
「はい。今日は、三人でのお話があるのです」
「そっか。で、えーと……アンタ誰だっけ?」
多分初めて、ロイドの目が私をしっかりと見る。私はそれに少し呆れながら、姿勢を正して自己紹介をした。
「改めて、名乗らせて頂くわ。私はカタリナ。パーシバル公爵家の一人娘で、今はこのシエルの主人よ」
「ああ、アンタが王妃の座を蹴ったって噂の! 俺はアーネンベルグ公爵家のロイド。アンタみたいに自分をしっかり持った女、俺は好きだぜ」
「好意的な言葉、痛み入るわ」
快活な笑みを返すロイドに、表情を変えずに答える。隣のシエルから一瞬黒いオーラが吹き出した気がするけど、気のせいだと思う事にする。
「で、シエル、話って?」
「はい。……ロイド様、申し訳ありません。わたくし、やはりロイド様とお付き合いする事は出来ません」
表面上は申し訳無さそうに、とても申し訳無さそうにシエルが話を切り出す。流石シエル、演技も堂に入ったものである。
でも、感心してばかりはいられないわね。私も私の務めをしっかり果たさないと。
当のロイドは、言われた事をイマイチ理解してないのかキョトンとした顔をしている。そして、こう口にした。
「え? だって俺達もうとっくに恋人同士だろ? あんなにデートしたじゃん」
「あれはデートではなく、ただロイド様に一方的に振り回されてただけです」
そんなロイドに、シエルはピシャリと言い放つ。……シエルのこめかみに青筋が浮かんでるのが、見える気がする……。
ロイドの方は「そっかー、あれデートじゃなかったのかー……」なんてブツブツと言ってるけど、全く堪えた様子はない。……成る程、ロイドが勘違いをしやすいのは、空気が読めないせいなのね……。
「よし!」
「?」
と突然、ロイドがバッと顔を上げた。その表情は、名案を思い付いた子供のようだ。
「じゃあ今度は、シエルの行きたい所に行こう! それならデートになるだろ?」
「……ロイド様……」
出された提案に、シエルが戸惑った顔になる。……そう、確かにロイドは空気が読めないし勘違いも多いけど、根はいい人なのだ。
そんな彼をこれから傷付ける事に、少し罪悪感はあるけど……。私達二人の為にも、ここは心を鬼にしないとね。
「残念だけどロイド、これ以上あなたにシエルを付き合わせる訳にはいかないわ」
私は毅然とした態度で、ロイドにそう告げた。この言葉に、シエルとロイドの視線が一斉に私へと向けられる。
「お姉様……」
「え? 何で?」
「これ以上、
そう言った私を、ロイドが要領を得ないと言った顔で見る。そんなロイドに、シエルが決定的な一言を口にした。
「わたくしが愛しているのは、貴方ではありません。ここにいる、カタリナお姉様なのです」
「……え?」
「わたくしとお姉様は、秘密の恋人同士なんですのよ、ロイド様」
ロイドの顔から、表情と色が消えた。それを心苦しく思いながらも、私はそこに更に畳み掛ける。
「リオンとの婚約を蹴ったのも、シエルを本当に愛してしまったからよ。使用人と主人、それも女同士という立場上、公には出来ないけど」
「ロイド様が見かけたというわたくしの笑顔は……きっと、お姉様に向けたものだったのですわ」
「……そんな……」
呆然と呟いたロイドが膝から崩れ落ち、その場に両手を着く。……そりゃ相思相愛と思ってた相手にこう言われたら、ダメージ大きいわよね。
「……シエルの事は、悪いけど諦めて頂戴。貴方ならきっと、またすぐにいい出会いが……」
「……嫌だ……」
だんだんいたたまれなくなってきた私が声をかけようとしたその時、ロイドが小声でポツリと呟いた。そしてその直後、勢い良くガバッと顔を上げる。
「嫌だ! 俺は諦めたくない!」
「!?」
「俺に悪いとこがあったなら全部直す! だから別れるなんて言わないでくれ!」
いやだから、別れるも何もそもそも付き合ってないんだけどね!? 駄目だわ、ロイドの勘違いぶりを甘く見てた!
「ロイド様、ですから……」
「俺、シエルがまた俺を好きになってくれるように一生懸命努力するから! 今よりもっともっと、いい男になるから!」
次々と飛び出す、情熱的な言葉。まさに、攻略対象からヒロインへの口説き文句。
この光景に、前世の記憶は奇声を発しそうなレベルで喜んでるけど……。
「私」は、何故だか酷くイラッとした。
「……いい加減にしなさいよ」
ボソッと、低い声で呟く。互いに別の意味で必死の二人が、それに気付く様子はない。
それにまたイラッとして、思わずシエルの両肩を掴んでこっちを向かせる。そこで二人の目が、同時に私を見た。
「お姉様……?」
「これ以上、私を無視して話を進めないで」
「えっ……」
そして。
私は。
――気が付くと、自分からシエルの唇に、自分のそれを重ねていた。
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