第15話 主人公(ヒロイン)の頼み事

「……今日も疲れましたわ……」

「ええ、私も……」


 帰りの馬車に揺られながら、座席にもたれかかる私とシエル。正面に見えるシエルの顔は疲労の色が濃く、本気で疲れているのだと解る。


 ロイドがシエルに告白してから、一週間ほどの時が過ぎた。


 あれからロイドは、休み時間の度にシエルに会いに来た。そしてその度に、シエルを連れて学園内の様々な場所へ向かった。

 シエルはいつもやんわりと断ろうとするんだけど、それを遠慮と勘違いしたロイドは半ば強引にシエルを連れ出してしまう。何しろ悪気が全くないのがよく解るだけに、シエルも強くは言いにくいようだ。

 そして残された私はと言うと、後からやって来たジェフリーに捕まりロイドへの愚痴や、日頃の不満を聞かされる日々を送っていた。恐らくは私に心を開いてきてるという事なんだろうけど、話の内容が内容だけにいらない疲労が溜まってしまう。


 ……という訳で、私達は現在、疲れる毎日を送っているのである。特にあちこち連れ回されてばかりのシエルの疲労は、相当なものだろう。


「……ハァ……」


 シエルが一つ、深い溜息を吐く。私はそれに励ましの言葉を……。


「お姉様分が足りない……お姉様の一挙一動をもっとこの目に焼き付けたい……」


 ……かけようとした矢先、呟かれたシエルの言葉を聞いて私は口を閉ざした。何か……シエルの私への依存が、日に日に強まってきてない……?


「おまけにジェフリー様までお姉様にすり寄ってきているし……あの害虫……絶対散々に弄んで手酷く捨ててやりますわ……」


 更に何やら物騒な事まで呟いてるけどうん、私は何も聞かなかった。と言うか、追及したくない。

 ……とは言え……。


「いつまでもこのままというのも……少し困るわね」


 自分も溜息を吐きながら、考えを口にする。シエルが心配なのもそうだけど、こっちもジェフリーの相手をしたくてしてる訳じゃない。

 それに、このままシエルが本当にロイドエンドを迎えてしまうのも……少しモヤッとするのは何でだろう?


「……」


 不意にシエルが顔を上げ、私をジッと見つめる。何だろうと不思議に思っていると、シエルは真剣な表情で口を開いた。


「……お姉様、お願いがございます」

「え?」

「わたくしの、恋人になっては頂けませんか」

「!?」


 あまりにも真剣に、真剣に言われたその一言に。私は瞬間的に、真っ赤になって硬直していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る