第9話 2人の相談と彼の秘策

 春也が退院してから三日間、宇宙とまともに会話をしていない。理由は向こうが避けているからだ。おまけに思い詰めたような悲しい表情をしているので、余計に話し掛けづらい。

 今朝も例外ではなかった。同じ家にいるのに「おはよう」の一言も言い合えない酷い状況だった。

 この様な状況が何日も続いては親友の雅人や亜紀乃が心配してしまうのも無理はない。

 そこで俺はある提案を思い付いた。

 この相談に乗ってくれるのは雅人しかいないと思い、昼休みに聞いてもらうことにした。


「それで、相談って?」


 半ば検討がついてるというような顔をして、あたかも予想だにしなかったこととして反問する。


「相談ってのは宇宙の事なんだけどさ。多分、お察しの通り今宇宙との関係が良くなくて……」

「それをどうにか解消したいってことだよね?」


 俺が言いにくそうにしていたのを見て、気を利かせてくれたのか強引に、より簡潔に話を繋げた。


「うん……」

「そろそろ相談して来る頃かなって思って解決策はバッチリ考えておいたよ」

「マジですか⁉︎ いつもながら流石です! ホントに助かります!」


 虚ろな目に近い淀んだ色をしていた春也は、その目を輝かしいものに変え一気に明るみを増していく。


「で、その解決策ってなに? 教えてください、雅人様」

「雅人様って……。僕は神様でも仏様でもないよ」


 雅人は呆れた顔をしてワザとらしくもったいぶる。


「そんなもったいぶるなって。な、この通りだから早く教えてください」


 両手で合掌しながら頭を下げるその姿を見て雅人は、苦笑いした。


「まあ、そんな大層なことじゃないよ。みんなである場所に行くだけさ」

「ある場所?」

「うん、遊園地」

「……遊園地?」

「遊園地」


 雅人の思考回路について行けず、俺は困惑していた。


「意味はないと思うがあえて聞く。なぜ遊園地なんだ?」

「理由は単純明確だよ。……でもまだ言えない」


 春也はやはりと言いつつ肩を落とす。


「春也なら言わなくてもそのうち分かると思うよ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんなの」


 雅人はこう言い出すと絶対に自分を曲げたりしない。その性格のおかげで助けになってる人がいるのだから今さら否定できるものではない。


「でも……一つだけお願いがあるんだ」

「お願い? 珍しいな、お前がお願いなんて」


 急に雅人は真剣な眼差しになり、


「失敗だけは絶対にしないでよね」


 その言葉は春也の薄っぺらい胸に大きく響いた。





 春也を避け続けている宇宙は、今日も朝から避けていた。屋上でのことも、マリーとのことも相談せず、ただただ春也を避けていた。

 しかし、今朝はある目的を持って避けていた。流石に宇宙もこの状態ではいけないと思い、焦り始めていたのだ。そこで宇宙は朝早くに登校し、雅人に相談することにした。

 雅人は登校に関してはクラスの中では1番早い。その日の日直よりも、誰よりも早く登校する。

 そのことを知っていた宇宙は二人以外誰もいないのを利用し、ふたりっきりで話すことにした。


「今日も早いね、宇宙さん。最近調子は大丈夫?」


 雰囲気を察してくれているのかここ最近はやけに優しく接してくれている。心優しく空気を読むことに特化している雅人だからこそ、できるのことなのだ。

 宇宙はそんな優しい雅人に感謝しつつ、できる限りの力で答える。


「うん、大丈夫。ちょっと相談があるんだけど……いい?」


 宇宙とはしっかりと会話したことがなかった雅人は半分は驚き、残り半分は嬉しさの感情が表情にわかりやすくでている。


「うん! 大歓迎だよ。僕が力になれるなら尽力するよ」

「ほんとう? ……ありがとう。で、相談っていうのは春也との仲のことなんだけど……」

「ああ、最近なんだか不仲だよね? 春也と」

「うん、それで春也と仲の良い男友達なら何か良い方法が見つかるかなって……」

「そういうことなら任せておいてよ。僕が力になるからさ」


 雅人は自身の胸に手を当て自慢気に言う。


「宇宙さんの嫌いな物とか場所って何かあるかな?」

「え? ……暗い所は嫌いだけど……それがどうかしたの?」


 雅人の言ってる意味が分からず不思議に思う宇宙。


「いや、何かヒントになるものは無いかと思って……暗い場所か……」


 雅人は両手を組み、数十秒間考た後、結論を見出した。


「遊園地……うん、遊園地がいい」

「……遊園地?」


 またしても雅人の思考に追いつけない宇宙は疑問に思う。


「そう、遊園地だよ。そこに行けば解決するかもしれない。いや、きっと解決する。でもこれだけは約束してほしい。最後の最後では絶対に投げ出さないこと」

「……わかった、頑張る」


 やけに自信ありげに言う雅人に対して宇宙は信じられないでいたが、自分ではどうにもならないのでここは雅人を頼りにするしかない。


「で、私は基本的に何をすればいいの?」

「それはまだ言えない」

「え? なんで」

「それを言ったら春也に演技だとか思われちゃうかも知れないからね」

「そう……なの?」


 宇宙はさらに訳が分からなかった。


「そうなの」


 雅人は宇宙を無理やり納得させ、勝ち誇った笑みで椅子を引き、立ち上がる。


「じゃあ僕は日直だから職員室行ってくるね。あと、遊園地の日程は後日連絡するから」


 雅人は宇宙の返事を待たずして教室を後にした。


「遊園地で何を……?」


 雅人が教室を出た後も真剣に考えたが結局、答えは出なかった。

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