第4話 ウワサ話
「待てぇ! この野郎っ!」
不幸の塊。そんな言葉が似合いそうな俺の人生。
俺は今、とある男性に追いかけ回されたいた。
「俺の顔を見たからには殺させてもらうぞ!」
セリフの通り、不幸な事に朝から犯行直後の犯人が目出し帽を外したところに出くわしたのだ。そしたら案の定、男は血相を描いて追いかけてきた。その頃宇宙はと言うと、逃げてる俺の側を宇宙はふわふわと飛びながら欠伸をしていた。
「宇宙! お前、俺を守りにきたんだろ!? なんとかできないのか?」
「ふあぁぁ。んー……大丈夫だよ、春也はこんなところで死なないから」
「死なないって、その根拠はどこからきてる!?」
「大丈夫だって。あと五秒くらいしたら転ぶから」
呑気にも程があるだろう。
「だから、その根拠はいったいどこにあるんだ……」
「うおっ⁉︎」
耳障りな声と共に男の身体が横転した。
そう、宇宙の予言通りに。
「って、本当に転んだ⁉︎」
俺は今起きた事に驚いているが、止まってる暇はない。男が起き上がってくる前に全力で逃げ切った。
「はぁぁー……やっと着いた」
朝から全力で走ったのでかなり疲れてるのが現状だった。
予想外の出来事に未だに驚きつつも、俺はまるで足を引きずったケガ人のように歩き、校門をくぐる。
「なあ、宇宙」
「なにー?」
「お前さっき、あの男が転ぶって予測したよな?」
「うん、それがどうしたの?」
「どうしたも、こうしたも無いだろ。あの予測も力の一つなのか?」
俺は半ば信じ難いが、物は試し。推測だが聞いてみるのが一番だろう。
「そうだよ」
……あまりあっさり返されるのも何だかあれだな。肩の力が抜けるな。
「とは言っても、十秒から三十秒くらい後の事しか予測できないけどね」
「いつでもできるのか?」
「そんな便利なものじゃないよ。できない時もあるしできる時もある。さらに自分の意思では使用できない」
「不便だな」
「まったくだよ」
そう言いながら顔をムスっと膨らませる。
二人の会話は静かな廊下に響き渡る程ではなかったが、少しだけ反響していた。
「おはよー」
俺はクラスの扉を開け、挨拶を交わす。
クラスの様子はいつも同じ賑やかである。
「おい鈴村! 話がある」
……賑やかである。
話しかけてきたのは同じクラスの高山 蓮太……だったような気がする。
「お前に一つだけ聞きたい事があるんだが」
確かサッカー部? いやいや、バレー部だっだか?
「おい! 聞いているのか!?」
「わりぃ、考え事してた。で、聞きたい事ってなんだ?」
「しっかり聞こえてんじゃねぇか! まあ、そんな事はこの際どうでもいい」
いいのかよ。そんなことで片付けても。
「お前に聞きたいことっていうのはな………その……お前と星波さんって……その……つ、付き合っているのか?」
……は?
……ちょっと待ってくれ。ウェイト、ウェイト、ウェイト。
付き合っているだと? 嘘も程々にしてくれ。
そんな嘘で塗り固められた噂話はいったいどこからきているのかと考えている途中に俺より早く、宇宙が応答した。
「私と春也は別に付き合ってるわけじゃないよ?」
「そうなのか? お前ら?」
「当たり前だ」
「そ……そうか、そうなのか!」
「なんだったんだ、あいつ」
高笑いしながら高山は自分の席へと帰って行く。
「春也! ちょっと聞いてくれないか!?」
そこに廊下を走ってきた雅人が話しかけてきた。
「なんだよ、雅人。そんなに慌てて」
「それが春也。君が星波さんと付き合っていると学校中で噂になっているんだよ」
どんな話かと思えば、特に問題のない噂だったので俺は突き放すような口調で応えた。
「別にいいじゃないか、嘘なんだし」
「そうだよ。それのどこに問題があるの?」
「星波さんが学校中で美少女が転校してきた! って噂は知ってるよね?」
しばらくの間考えた。考えた結果、知らなかった。
「いや、知らないな」
「え知らなかったの? 学校では結構な噂になってるんだけど」
「ふーん、私って美少女なんだー」
宇宙がちらちらとこちらを見つめる。
「何を言っているんだ、こいつが美少女なわけがないだろ。鉢合わせただけなのに腹に回し蹴りをいれてくるような奴だぞ? だいたい美少女ってのはな、そこにいるあき……ごふぅっ!?」
話してる途中に腹にパンチをくらった。
「ぐ、グーパンだと……! こいつ、なに考えてやがる!?」
「別にいいじゃん、美少女ってはことで。それとも何? 私が美少女で何か問題ある?」
「……無いです」
俺は苦しくも諦めざるを得なかった。
いつかやり返してやると、強く念じた。
そんな俺の心の中で抱いてる結束を遮るように雅人が入ってくる。
「大丈夫かい? 春也」
「問題ない。ノープロブレムだ」
数少ない俺の友達に心配だけはかけたくはない。
「そう、なら話を戻すよ。で、その人気のある宇宙さんが三年生に気に入られたんだ。でも、仮に三年生が、いつも一緒にいる春也と付き合っていると勘違いしたら、三年生はどう思う、と思う?」
「どうもこうも、諦めるだろ、普通は」
「普通は、ね。でもその三年生は転校してきた宇宙さんに春也が早くも手を出したと勘違いしているんだけど、その春也をシメようしているんだ」
その言葉に俺と宇宙は驚愕した。
「ど……どうせそれも噂なんだろ?」
俺は自然と身体が微弱ながらも震えていた。
「噂でもなんでもないよ! 僕はさっき図書室で聞いたんだ。三年生が春也のことを話してるのを」
「へーそうなんだー」
「ちょっと春也!? 他人事じゃないんだから」
他人事じゃないのは分かってる。だけど、自分の末路を鑑みると気が遠くなる。
「春也ー、大丈夫? なんだか目が遠くを見ちゃってる目をしてるよ?」
そんな俺を心配してくれたのか宇宙が声を掛けてくれる。
「大丈夫、絶対に生きて帰ってくるから」
「春也!? それ映画で死ぬ奴が戦いに出る前に言う台詞じゃないか!?」
戦わずしとも利を得るの事は可能であるだろう。
そういいながら湯呑みを手に取り、お茶をすする妄想をする。
「なんか心なしか和んでない?」
「星波さんまで何を言ってるの!?」
突然、授業開始のチャイムが鳴り響く。
「と、取り敢えずこの話はお終い! ささ、二人とも席に行こう」
雅人に言われるがままに席に着いた。
それから、その日の午前の授業はまったく頭に入ってこなかった。
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