7話
……というわけで、現在の状況を整理してみよう。
私、ペルラはネクロマンサーを目指している人間だ。
そしてその師を探す道中、とあるおまじないが気になって試してみたところ、レオン・サビーナという死霊を喚んでしまった!
しかも彼は、キスでの本契約をせがんでくる……とんでもなく自我の強い死霊だった。好きにならせてみせると言われたけど、今のところ彼が何をしでかすのかどうか怖くてたまらなくて好きとかそれどころではない。強いところはありがたいけど……これ以上強くなったら手がつけられないんじゃないかということも、私を怯えさせる。
元に戻すために、とりあえず彼を連れて師となる人物を探して廃屋の立ち並ぶ村に来た。
そこにいたネクロマンサーの師は私を弟子にすると受け入れてくれはしたものの……やたらと男女関係に厳しい人だった!
なのでこれからの生活が、すごくややこしくなりそうな予感がする。
でも弟子として受け入れてもらえたのが嬉しくてあんまり気にならない!
やっと! やっと受け入れてもらえる本当の師が見つかったのだ!
幸せなことこの上ない……!
「……ネクロマンサーに弟子入りしてそんなに喜んでいる人間ははじめて見たかもしれない」
師がそう言った。
「そうなんですか?」
「皆、ここに来てもなお不服そうにしているものだ」
先導されながら、大きな建物の室内に入る。中はものすごく綺麗だった。建てられてからそんなに経ってないのではないかと思うくらいに。どうして外は廃墟も同然なのか分からないくらいだ。
「え、先生、その方々は一体どうされたんですか!」
「うわっ」
部屋の奥から、男性の驚いたような高い声が響き渡った。この場所に師一人ではないだろうとは思っていたけれど、いざ実際に人が出てくると驚いてしまう。向こうも、私とは意味が違うだろうが驚いていた。
「弟子だ。茶はいらない」
「よ、よろしくお願いします」
「弟子って……二人ともですか!?」
彼は主にレオンさんを見ながら、そう叫ぶようにして問いかける。
「もうすぐ一人になる」
「……どういうことなんです!?」
わけが分からないといったように詰め寄ろうとする彼を、師はほとんど力尽くで止めた。生身での力も強いのかと、思わず感心してしまう。
「落ち着いて俺の分の茶を持ってこい」
「はい……」
彼は諦めたのか、渋々と厨房のほうに下がって行った。
そして私たちは、一番奥にある部屋に通される。
薄暗い室内だったが、師が電気をつけた瞬間に明るくなった。電気まで通っているなんてと思ったが、それ以上の疑問があった。
「ここは……?」
「ネクロマンサーの基礎を教える部屋だ」
「そうなんですね……」
どこか本で読んだことのある学校のような空間に、心がときめいた。
座っていいと言われたので、師の座るであろう位置の真正面に座った。レオンさんは、その隣に座った。私にちょうどいい椅子なので、すごく座りづらそうだ。
……改めて、師を真正面から見る。
とても綺麗な目をした人だと思った。顔立ちもレオンさんほどではないとはいえ、整っている。体格だって、悪いようには思えない。女性を選ぶ立場としては困らないだろうに、どうして男女の関係にこだわるのだろうか。不思議でたまらない。
「さて、ひとまず名を名乗っておこう」
「あ……」
そこで私は、師の名前を知らないことに気が付いた。
「知らないままに、ネクロマンサーとして探していたんだろう?」
その言葉に、そうですと控えめに頷いた。
知らなくても師と慕えばいいんだろうが、教えていただけるんなら知っていたほうがいいと思い、ちゃんと聞こうとする。
「俺の名前は、クロード・サエッタ。クロードでいい」
「クロード師匠……! よろしくお願いします!」
聞いたことがない名前でもないはずなのに、師の名前だと思うとすごく素敵に思えてしまう。不思議なものだ。
「で、そこの死霊はなんていう名前なんだ」
「私か? 私はレオン・サビーナだ」
「サビーナ? 聞いたことない家名だな……」
師でも知らないくらいの家名なのだと思い、少し安堵してしまう。これで実は有名な家名でしたとかだったら、自分の無知さが露見してしまうところだった。
「家名について詳しい人間に、コンタクトをとってみよう。もしかしたら、何か詳しいことが分かるかもしれない」
「別に構うことはない。知らない家名になったということは、滅んだというだけの話だ」
「しかし、還すためには必要なことだ」
「私は還されるつもりなどないが?」
鼻で笑うレオンさんに、師は軽くため息をついた。師にため息をつかせるなんて……!と思ったが、口出しすることも出来なかった。
「それだけこの娘に執着しているということか?」
「そうなるな」
「……ペルラ、と言ったかな?」
「はい! なんでしょうか!!」
「破門だ」
「ど、どうしてですか!?」
いきなりの展開に、驚きを隠せない。
「そこまでの執着を、男に向けられているからだ」
「そ、そんなの自覚がないですし……」
「自覚がないと余計にたちが悪い。ほら出て行け」
さっきの彼にやったように、力尽くで出て行かされそうになる。しかし出来るだけ力を振り絞って、私はそこに留まろうとした。けれどやはり師のほうが力が強く、外に追いやられてしまった。
「その死霊を還してみてから来るんだな」
「その方法を学びたいっていうのに……!」
扉まで閉められてしまった。外の見た目は廃墟なので、激しく叩いて抵抗することも躊躇われた。
「やはり、私と本契約するのが一番じゃないのか?」
そんなことを言うレオンさんを無視して、なんとかならないか考える。考える。考える……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます