CHAPTER 04:フィールド・オブ・グラス
荒涼たる赤土の大地は、進むにつれて白い砂の海へと変わった。
大陸西方に横たわる
リーズマリアらの一行を乗せた
フォルカロン侯爵領を出立してからすでに四日が経過している。
そのあいだ、目に入るものといえば、ひたすら代わり映えのしない風景ばかり。
集落はむろんのこと、廃墟や遺跡の類すら見つからない。ウォーローダーのスクリューやタイヤの痕跡もしかりだ。
人の営みをうかがわせるものは、ここにいたるまでの道中、なにひとつ見つからなかったのである。
それも無理からぬことだ。
最終戦争の末期、この一帯は人類軍による猛烈な水爆攻撃に晒された。
生物と非生物の区別なく、およそ形あるものは灼熱の炎のなかで形を失い、ガラス状の物質となって大地を覆った。
それから八百年あまりの年月を経るうちに、劣化が進行したガラスはじょじょに形を失い、微細な粒子へと姿を変えていったのである。
砂漠を埋めつくす白い砂は、かつて人間だったものの成れの果てなのだ。
***
「どうも妙なんだ」
アゼトはテーブルの上に置いた電子
陸運艇の内部――けっして太陽光の届かない船室である。
アゼトの隣ではリーズマリアがやはり地図に視線を落としている。
レーカに船の操縦を任せ、船内に降りてきたところで、二人はちょうど鉢合わせたのだった。
時刻は昼の三時をすこし回ったところ。
セフィリアがそうしているように、リーズマリアもほんらいならまだ自室で眠っている時間である。
人間同様、吸血鬼もバイオリズムには個人差がある。その日の体調によってはなかなか寝付けなかったり、早く目が覚めすぎるということも珍しくはない。
「アゼトさん、妙というのは?」
「この四日間、昼も夜もずっと走り続けている。そろそろ砂漠を抜けてもおかしくないころだ。それなのに、まだ地平線には山のひとつも見えてこない」
「道に迷った……ということですか?」
「もし
言って、アゼトは腕を組んだ。
ここでいくら頭を悩ませたところで原因はわからない。
考えても仕方がないなら、身体を動かすのが最も賢明な選択なのだ。
「ノスフェライドで偵察に出ようとおもう」
「おひとりで……ですか?」
「そんなに遠くまで行くつもりはないから心配はいらない。それに、ノスフェライドに乗っているかぎり、どこにいてもいっしょにいるのと同じだろう」
リーズマリアの紅い瞳がかすかに揺れ動いた。
たとえノスフェライドを介して意識と感覚を共有していたとしても、離れ離れになることに変わりはないのだ。
そんなリーズマリアの様子を察したアゼトは、そっと手と手を重ねる。
「大丈夫。すぐに戻ってくるよ」
***
一◯分後――――。
陸運艇の後部がスライドし、隠されていた甲板が半ばまであらわになった。
日没が迫ってもなお強烈な太陽光のなかに佇むのは、漆黒と銀の二色に彩られたブラッドローダーだ。
ノスフェライド。
選帝侯ルクヴァース家に伝わる
リーズマリアが搭乗した際には
黒い装甲のところどころに差し込まれたまばゆい銀色は、装甲下に隠されていた内蔵式アーマメント・ドレスが露出したものだ。
アルダナリィ・シュヴァラとの戦いでアゼトとリーズマリアが”
ただ色が変わっただけではない。アーマメント・ドレス発動のリミッターが解除されたことで、通常時の出力もいくらか底上げされている。
もっとも、ブラッドローダーはすでに進歩が止まって久しい――技術的にはとうに枯れきった兵器だ。
性能向上の方策についてはすでにあらかた研究し尽くされ、いまさら新装備や新武装によって劇的に性能が向上するというものではない。
ましてブラッドローダーの最高峰とされる聖戦十三騎ともなれば、度重なるアップデートによって、個々の性能差はほとんど誤差の範疇といっても過言ではない。
ブラッドローダーの戦いにおいて勝敗を左右する決定的な要因はべつのところにある。
すなわち、
アゼトという理想的な乗り手を得たからこそ、ノスフェライドはここまで多くの強敵を打ち破ってきたのだ。
「発進する。レーカ、なにか異状があったらすぐに報せてくれ」
甲板のやや離れた場所に立つ
「私も同行したいのはやまやまだが……」
「気にしなくていい。飛べるようになったといっても、ヴェルフィンの航続距離には限りがあるだろう。それに、レーカにはリーズマリアのそばにいてもらわないとな」
アゼトの言葉に、レーカはこくりと頷く。
ノスフェライドの両脚が甲板を離れた。
黒と銀の機体は、ゆっくりと垂直に上昇していく。
ジェットエンジンのけたたましい給排気音も、ロケット・モーターの猛烈な噴射炎もない。
内蔵された
やがて陸運艇が黒い点ほどに小さくなった頃合いを見計らって、ノスフェライドは水平方向への加速を開始した。
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