ピストルより苦い
@mazuj
第1話
女はごった返す繁華街の裏通りを歩いていた。夕方に差し掛かり派手な蛍光色のネオンが光り始める。
この通りは風俗店、キャバクラ、怪しげなマッサージ店が並んでいる。
以前は大規模なソープ通りとして有名な大通りだったが今は廃れた下級店が軒を連ねており、安っぽく顔に厚塗りした客引きの女が店先に立ちんぼうになっている。
埃っぽく汗を含んだような空気ときつい香水の香りに女は思わずむせ返りそうになった。
この低俗風俗通りを奥に5分ほど歩くと通りの中でも一層古びた木造の建物があった。2階建てで1階は格安ソープ店のようだった。
「あれ、この辺のはずなんだけど。」
女は道を確認しようと鞄からくしゃくしゃになった地図を取り出した。
「おねーさん、迷子になっちゃったの?」
女が地図に落としていた目をサッと前に戻すと目の前にはニコニコした若い男が立っていた。
耳まで掛かった長い金髪に耳にたくさんのピアス、安っぽいスーツ。瞳は緑色のカラーコンタクトをつけているようで小さい頃飼っていたトカゲを連想させた。
「急いでいるんで。」
女は面倒臭い奴に引っ掛かったと適当に道を歩き出した。
「ちょっとちょっと!」
後ろから肩を叩かれる。
「何?しつこいんだけど。」
思わず手を払いのけると男は困ったような表情で微笑んでいた。
「この先行き止まりで何にもないよ?俺詳しいから案内してあげるよ。」
どうやら女が目指していた所は安っぽいソープのある木造の建物の2階だったようだ。
よく見ると建物の隅に錆び付いた鉄階段があり2階へと続いているようだった。
小さな看板も出ているが文字は色褪せていて読めない上、今にも取れかけているようだ。
色褪せている具合から見て相当古い事は一目瞭然である。
「おねーさん、こんなトコで働くの?」
男は眉をしかめながら2階部分を見つめている。
「・・あんたには関係ないから。」
女はイラついたようにカンカンとうるさい音を立てながら鉄階段を上がる。
「ちょっとまった!」
男は女の襟足を後ろから引っ張ると、思わず女は後ろから転びかけた。
「何?キャッチかホストなら迷惑だから消えてよ。」
女は引っ張られたシャツの襟を正しにらみつける。
こわいこわいと男は薄ら笑いを浮かべ、自分は無害と言うように両手を合わせた。
「いや、君みたいな子珍しくてさ。見たところまだ若いでしょ?名前だけでも教えてよ。」
「花子さん」
「嘘」
女は再び階段を上り、男を見下ろした。
「せっかく案内してあげたのに愛想ねーの。」
男は不満そうに頬を膨らませている。
この男はこの人懐っこさで何人の女を落としてきたのだろう。
「私に関わってもあんたに何にもメリットないよ。」
そう言うと女は2階のサビれたスナックの重い扉を開けた。
ピストルより苦い @mazuj
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