第10話「フォース・ウイング」
「よし!!」
砲撃手であるエドワードが放った破砕弾は見事、帝国軍ガゼル級の上部見張り席へと命中し、彼は砲手席の中で喝采の声を上げる。
「これで、俺も星三つ!!」
たとえこの王国軍の新造艦「セブレント」の砲といえども、初弾がいきなり命中するのは珍しい事だ。
「あと一つで、除隊が射程範囲!!」
その彼の砲撃に続き、セブレントの他砲門からも火線がそのガゼル級にと向かう。
「よし、俺も……!!」
ズゥン……
だが、その二撃目、三撃目と続けて放った破砕弾は明後日の方向へと向かっていく。もともとが飛行船の砲というものが数で勝負する物なのだ。彼の腕が悪い訳ではない。
「……各砲座、砲撃中止」
「何だって、艦長?」
伝令管を通して伝わった艦長からの言葉を受け。
「あ……」
実と見ると、その帝国軍のガゼル級はターボエンジンを吹かし、戦域から離脱しようとしている。どうやら先にセブレントによって「上」を取られた事により、不利を悟ったのであろう。
「ちぇ……」
エドワードにとっては除隊が遠のいたが為に、不機嫌そうにその舌を鳴らす。
――――――
――お元気ですか、エリア――
「よお、エドワード!!」
居室で筆を取っていた彼を、同僚が軽く馬鹿にしたようにその手で小突く。
「また、恋人への手紙かぁ?」
「うるさい、いいだろう!?」
「へへ……」
その同僚はエドワードにとって悪い仲間であるとは思っていないが、それでもプライベートにまで口を出してくるのは、あまり嬉しい事ではない。
――もうすぐ、俺は除隊になる――
同僚が部屋から出ていった音をその耳にと入れながら、エドワードは手紙を書くその手を止めない。
――給料も貯まり、宝石の一つでも買ってやれる、ようやく――
そこまで書いて、エドワードは軽くその背を伸ばしつつ。
「あ、願い竜……」
居室の丸窓から見える、星空に映える虹色の翼へと、その視線を向ける。
「何か、不吉な事でも起きるかな?」
他の人々は願い竜の事を不吉の象徴だと見ている風があるが、エドワードはその噂をややに馬鹿にしている。
「こんな綺麗なドラゴンが、不吉な訳があるものか……」
そう独り言を言いながら、エドワードは再び鉛筆をその手に取った。
――――――
真昼の超高高度では浮遊島もその姿を見せず、ただエドワードの眼下には雲海を望むのみ。
「この砲座も、まもなく見納めかあ……」
しかし、その「命中マーク」を当てにした彼の発言は、やや捕らぬ狸の皮算用の所がある。
「早く、帝国軍の艦でも出ないかな……」
しかし、最近ではここらの高高度空域は王国軍が優勢となっている。先のガゼル級を最後に帝国の艦はその姿を見せない。
「そうすりゃ、俺も除隊……」
命中マークを稼がなくても、一年もすれば除隊にはなるが、それまで彼エドワードは待ちきれない。
「エリア……」
その彼の恋人の名は、砲座室の中にと響いたのみである。
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