第9話「手紙」
「今日も良い星空……」
彼女、観測兵の任務席である船の場所にと座り込む彼女ウルスは、今日も望遠鏡を片手に。
「でも、この星空も見納めかあ……」
見張り、それに精を出す。
「この、ガゼル級の妙な揺れも」
この彼女が務める観測室は狭く息苦しい。だか。
「変な匂いが充満する、この観測室も」
もうすぐ、彼女は除隊となる。
「火薬の匂いが立ち込める、この艦も」
徴兵でこのガゼル級に配備されたその日、それから長いような短いような日々が過ぎた。それももう終わり。
「もうすぐ、お別れか」
そう思うと、何かと感慨深い物がある。
「あ、願い竜……」
その闇夜にと翼を拡げる願い竜、虹色の翼が彼女の視界一杯にと広がり。
「もしかして、若い竜かしら?」
竜の翼、そこからは淡い燐光のような物が、星空にと散らばる。
グゥ……
「ん?」
何かがガゼル級、彼女の艦上空へと影がよぎった。
「何だろう……?」
彼女が疑問に思い、その手に持つ望遠鏡をその影にと向けた、その時。
「……!!」
突然の砲弾が彼女の席へと直撃し、そのウルスの身体が宙へと投げ出される。
ウゥウ……!!
そのガゼル級がかき鳴らす警報の音も、彼女の耳には入らない。
「う、うう……!!」
宙を落下していく彼女は、致命傷を負った自らの腹部から昨日書き終わった手紙を取り出す。
「ウ、ウーゼル……」
徐々に狭まる視界、その視界の中で彼女は。
シャ、ア……
最後に彼女は、虹の翼を見た。
――――――
「こちら第百二宙域、王国軍との戦闘が開始されました」
通信兵ウーゼルはそう帝国本国にと通信を入れた後、その野外通信局にしつらえたテントからその身を乗りだし。
「ウルスの奴は、元気かな……?」
よく晴れた青空の元で、大きく伸びをする。
ヒィラ……
その深呼吸をしている彼の手元へ、天から風に揺られて落ちてくる数枚の手紙。
「ウルスの、手紙……?」
その紙の束は、そのまま彼を抱き締めるかのようにその場、草原にと舞う。
「ウル、ス……?」
彼のその声、それには風は答えない。
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