第8話「空の日常」

「あ、願い竜……」


 星々が見える超高高度を飛行しているガゼル級、その見張り部屋で勤務をしているウルスからは、虹色の翼をひらめかせた願い竜の姿が見えた。


「あの願い竜も、どこから来るのか……」


 その事でも手紙に書いてみよう、そう心に秘めたウルスは、そのまま夜の見張りを続ける。


 シュウ、ア……


「おや、あれは……」


 ウルスが見ている願い竜、その竜の翼には、下方から幾筋もの光が吸収され。


「もしかして、あれは魂というもの?」


 願い竜の咆哮と共に、その虹色をした光の筋達が一つに纏まり、竜の身体を包み込む。


「何か、良いものを見ちゃったなあ……」


 そのままウルスの視線の先で願い竜はまた一つ吼えた後、その翼を翻して天高くへと昇っていった。




――――――




「艦長」

「ウルス、観測任務の全体的な報告をせよ」

「ハッ……」


 とは言っても、帝国軍第八艦隊所属のこの独立艦では、先の王国軍との小競り合い以外に大した事件はない。


「報告は以上です」

「ウム……」


 そのウルスの報告を受けた艦長は、そう言って頷いたきり、パイプを吹かし始める。


「では……」


 一礼をしつつ、ブリッジから出ていくウルス。彼女の渡る居住室へと繋がっている外部通路からは、満天の星々が見えた。


「綺麗……」


 こうして夜の空を見上げてみると、自分が所属している帝国と王国との戦争が、まるで他人事のように感じる。


「この事も、手紙にと書こう……」


 そう思いながら、彼女ウルスは居室へとその足を運ぶ。


「あ、ウルス」

「何?」


 外通路、そこで外の風に吹かれながらウルスは同室の女性兵士と出会う。


「あ、もしかしてそのバスケットは……」

「カマンのパン、補給物資にあったのよ」

「やったね!!」


 そう、嬉しげな声を上げながら女性兵士二人は、そのまま居室へと歩いていった。




――――――




――ウーゼルへ――


 チーズ入りのパンを食べながら、ウルスは寝静まった居室で一人手紙を書く。


――今日は特に何もなし、良い星空だったよ――


 次の郵便物配達艇は約一週間後、その船が来る時に備えて、彼女は手紙を書きためる。


――もうすぐ、私は除隊になるね――


 一つ欠伸をしながら、彼女ウルスはひたすら手紙を書き続けた。


――会える日を楽しみにしています。ウルス――


 今日の手紙を書き終えたウルス。彼女はそのまま書いた手紙をカバンにとしまいこみ、そのまま床についた。

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