第7話「サード・ウイング」
「この徹甲弾射出銃」
ウルス、彼女はそう愚痴りながら、自らが携えるライフル銃の手入れを続ける。
「肩への反動が酷すぎるわよ」
「まあ、無茶な造りの銃だからねぇ……」
「でも、そのお陰で」
空中軍艦の居住室、狭いその空間ではそのライフル銃は場所をとって仕方がない。
「あの空賊のエアボートを、撃退出来たんだけどね」
「何故か、一隻しか来なかったあのエアボートをね」
「それを言わないで」
そう言いながらウルスは、居住室の丸窓から外の青空を実と見やる。
「空賊には、空賊の都合があるんでしょ……」
「まあ、空賊の事情なんか言い合っても」
「仕方ないわね」
「フフ……」
雲の上の世界を見つめたまま、そう彼女ウルスは同室にいる女性兵と笑い合う。
「さて……」
「また、彼氏への文通?」
「うるさい」
彼女の休憩時間は残りわずか、その間にも何とか、遠く離れた島にといる恋人に手紙を書いておきたいが。
――そちらの様子はどうですか、私は元気でやっています――
その後の言葉、それがどうしても続かない。
カァン、カァ……
その時、当直交代を知らせる鐘の音が伝令管を通して伝わり。
「ほら、行くわよウルス」
「う、うん……」
手紙を書き残したまま、彼女達は居住室から出ていった。
――――――
「こんな高空域に、王国の軍がいるのかしら……?」
船外上方甲板での見張り台、そこでウルスは双眼鏡を片手に、あちらこちらの雲間を覗いている。
「おや、あれは……?」
そのウルスの視線の先では、何やら一匹のドラゴン。
「艦長」
「何だ、ウルス?」
「方位二の上に約八、願い竜の姿が見えます」
手元の高度計でその、何か「座礁」した船の残骸を食べている願い竜の姿を見て、彼女ウルスはこの「ガゼル級」の艦長にと、その事を伝える。
「どうやら、パルナート級の民間船を食べているようですが……」
「願い竜か、不吉だな」
「このまま、対象の観察を続けます」
「うむ……」
太陽の光が眩しい高高度の雲海、そこで一心不乱にその船を食べている願い竜にと、ウルスは双眼鏡を傾け続けた。
「……見るだけなら、あの虹色の翼は綺麗なんだけどな」
それでも、他のドラゴンのようにこの願い竜をシンボルとして、飛行船やエアボートに描く者は少ない。
「不吉な竜、か……」
そう言いながら願い竜を観察していたウルスの耳に、開けっぱなしの伝令管から他の見張りの声が響く。
「こちら、艦下方観測室!!」
その見張り兵の男の声と共に、伝令管からは警戒を知らせる音が鳴り響いた。
「王国軍、我が艦の真下にいます!!」
「各砲門!!」
艦長のその掛け声と共に、艦内があわただしく様子、それが伝令管を通してウルスにも伝わってくる。
「下方、雲海の中に向けろ!!」
ウルスもその下方雲海、それにと視線を向けようとしたが、どうやら本当に敵艦はガゼル艦の真下、ウルスから見て死角に浮かんでいるらしい。
「あたしが出る幕はない……」
そう思いながら、彼女は飛行船の残骸を食べ続けている願い竜からその目を移し。
「では、他に敵艦はと……」
太陽の光が照りつく、高高度の世界でその任務、観測を続ける。
――――――
――お元気ですか、ウーゼル――
夜空の星々が部屋の丸窓から見える中。
「また、恋人に手紙を書いているの?」
「うるさい、いいじゃない……」
ウルスは、恋人ウーゼルに向けて手紙を書き続ける。
――今日もまた、王国軍と戦闘があって、沢山の人が死んだよ――
空での戦いで下にと沈んだ艦。その中にいる人々が何処へ行くのかは誰にも解らない。解明されていない謎だ。
――空の下には大きな浮遊島があり、そこに人が行き着くと言われてるけど――
それでも、その「噂」の真偽は誰にも解らない。この空に住む人々の永遠の謎である。
――空の上にも何があるか解らず、下にも何があるかわからないね――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます