第3話「ペンダント」

 自動砲台の散弾が一隻のエアボートを破壊してしまったのは、相手を怒らせる藪蛇だったのかもしれない。しかし。


「空賊は、捕らえた人間を奴隷として売り払う事も平気でする……!!」


 その実例を何度も聞かされたアランは、必死でパルナートの操縦を試みる。


「くそ、まだ迫ってくる……!!」


 ややにパルナートの方が相手の船よりは速度が高いらしいが、空賊の船もターボ機能でも搭載しているのだろうか、かなりの速度でアランの船にと迫り来る。


 カァン……!!


「う、うわ!?」


 ライフルの弾が今度はアランの目前、風防にと命中し。


「く、くそ!!」


 その弾と風防が弾けた破片が、アランが身に付けている対風圧用のゴーグルにとかすめた。


「アイリーン!!」


 その祈りの言葉と共にアランは胸からのペンダントを握り締めながら、自動砲台の砲門をそのエアボート達へと向ける。しかし。


「た、弾切れか!?」


 その隙を見逃さなかったのか、アンカーが再びアランの船を襲い。


 ガゥ……!!


 今までの無理をした船へのターボ、それにエンジンが耐えきれなくなり、パルナートの速度が一気に低下する。


「空賊め!!」


 取り付けられたアンカーを引いた空賊達が、貨物の搬入口から船の内部へと入ってくる音を耳にしたアランは、懐のピストルをその手に持ちつつ飛行船を自動操縦に切り換えながらも。


「荷物を渡すものか!!」

「獲物はどこだ、若造!?」


 船へと乗り込んできた、その髭面の空賊を迎え撃とうとしたが。


「言え、若造!!」

「ええい!!」


 ピシィ……!!


 そのアランが放ったピストルは船の揺れで空賊には命中せず、そのお返しとばかりに放たれた。


「グゥ……」


 空賊からのライフルにより、胸から血が吹き出し、そして。


「落ちな、若造……」


 ガッ……


 薄汚いブーツ、空賊のそれにより夜空へと放り出される。


「アイリーン……」


 空に舞い、薄れていく意識の中でアランは恋人の顔を思いながら二組のペンダントをその手にする。そして。


「あ……」


 最後に彼は、虹の翼を見た。




――――――




「可哀想に、アイリーンさん」

「病状が、急変してねえ……」


 朝日が照り始めた浮遊島、そこに並んでいる無縁仏の十字型をした墓には、一人の女性の名前が刻まれている。


「あ、空を見て……」


 その年配の女性達が見上げた空の上には、虹色の翼をはためかせた一匹の竜。


 トゥン……


 その竜が流した一滴の涙は、そのまま二組のペンダントと化し、それらは。


「願い竜よ……」

「珍しいわねぇ……」


 あたかも首にでも掛けるかのように、その十字の墓にと舞い降りた。

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