第2話「夜の飛行船」
夜の飛行船から光を放つのは、良し悪しだ。
「夜には、空賊もあまり出ないのだがな……」
夕方頃に人工衛星島、小規模な補給基地へと立ち寄り、仮眠をとったアランは、急く気持ちのままに夜間飛行を繰り出している。
――ここいらでは、夜間でも空賊が出ますよ――
――なに、振りきれるさ――
――そりゃあ、ここまで軽量化していれば――
だが、その補給基地での係員の台詞はもっともだ。賊に定時などはない。
「とはいえ、空賊が狙うのは貨物、暗くてはそれを落下させるリスクがある……」
そのアランの意見も正しいことは正しいがやはり恋人の病気、それの進行が深まっている事も彼を焦らせている。でなければ夜間飛行というものが危険なのは間違いで無いのだ。
「ま、どうにかなるさ……」
気休めにも似た言葉を吐きながら、アランは闇夜の空へとパルナートを飛ばさせる。それでも空賊対策の為、電灯は付けない。
「……」
だが、昼間に願い竜が落としたペンダント、それが空賊の心配から別の心配にと彼の心を移させる。
「フン……」
そのペンダントをポケットにとしまいこみながら、アランは自身が首から身に付けている元々のペンダント、それにコツコツと指を叩きつけた。
「ん……?」
その時、アランは肌にと感じる夜の空気、パイロットスーツ越しにも肌寒く感じるそれに「何か」が混じっている事に気が付く。
「硝煙の匂い……?」
硝煙、その匂いに嫌な気配を感じながらも、アランはパルナートの出力を上昇させようとした。その時。
ズォン!!
「た、対空砲!?」
その砲弾はアランのパルナートから弾道が逸れたようであるが、その砲に続き。
ブゥ、ン!!
羽音のような物を夜の空へと響かせながら小型艇、よく空賊が獲物を捕獲するために扱う一人乗りのエアボートがアランのパルナートにと接近してくる音が聴こえる。
「エンジン、ターボ点火!!」
片手で自動砲台、散弾を放つその対空砲のコントロールを行いながら、アランは船のスロットルを大幅に上昇させた。
ゴゥン!!
「アンカーを取り付けられたか!!」
その船へとアンカー、楔を取りつけたエアボートを散弾で追い払いながら、アランはパルナートを加速させ、一気をその空賊達から距離を離そうとターボエンジンをかける。
「数は一隻!!」
空賊の数は多くはない。目印になることを覚悟で付けた照明から判断するに、小型から中型の船一隻にエアボート数隻といった所である。が。
「どちらにしろ、このパルナートは戦闘用ではない……!!」
とるに足らない規模の空賊といえど勝てる相手ではなく、さりとて荷物を渡す訳にはいかない。
「アイリーン!!」
恋人の名を御守りのように叫びながら、アランはパルナートのエンジンを噴かす。その彼の船に迫り来る空賊のエアボート達。
カンッ!!
その高速で迫るエアボート、それに乗る空賊が放ったと思われるライフルの弾が、パルナートの外装にと弾かれる。
「アイリーン!!」
空賊を引き離せない、その事に恐怖を感じたアランは、またしても恋人の名を叫ぶ。
――――――
バゥフ……
その卑小な人間達の様子を、願い竜は透明な夜の闇の中からじっと見つめている。
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