空と船と願い竜

早起き三文

第1話「ファースト・ウイング」

「荷物点検、オーケーです……」


 アランが乗る「パルナート」の荷物点検を行っていた役人から、書類とそれに付属したサインをもらいながら。


「気を付けて下さいよ、アランさん」

「何か、あるんですか?」


 串に刺した焼鳥を食べつつに、アランはその役人の言葉に耳を傾ける。


「まさか、空賊でも?」

「そのまさかですよ」

「こんな小さな、浮遊島にもねえ……」


 その話を聞いたアランは、飛行船パルナートの進路を変えようとも思ったが。


「物が、乾燥食品ではないナマモノだからね……」


 氷で冷やしてはあるが、ルートを変えるとあれば、通常なら二日あれば着くはずが倍の四日はかかってしまう。


「やはり、このまま進路を変更しないで進むかな……」

「気を付けて下さいね、アランさん」


 そのアランの言葉を耳聡く聞いていた役人は、彼の事を気遣う声をかけてくれる。


「それと、アランさん」

「今度は、何?」

「何か最近」

「ハッキリと言ってくれ……」


 その、小声で妙に口ごもっている役人に少し苛立った声を上げながら、アランは食べ終わった焼鳥の串を自らのズボン、それのポケットにとちゃんとしまう。


「日が出ている内に、出港したいんだ」

「最近、ここらで願い竜が出ているようなんですよ」

「へえ……」




――――――




 小型船「パルナート」では他の大型貨物船のような、いわゆる一般向けの荷物をもってしては利益を得る事が出来ない。


「この金ナマコ、良い金になれば良いけどな」


 ゆえに、彼アランは金持ち向けの特産品等を、主に取り扱っている。


 ブルゥ……!!


「エンジン、調子はよし」


 その為、このパルナート級も軽量化を成しており、通常なら四日はかかる隣の「島」にも半分の二日で行くことが出来るのだ。


「空賊が出ませんように……」


 チャラ……


 アランはその操縦桿を握っている片方の手を離し、そのまま胸から下げているペンダントにと、軽く触れた。


「こちらパルナート、アラン船出ます」


 その港にいる管制員に大声で叫びながら、アランは船のスロットルを上げ、そのまま。


「今日は良い天気だ……」


 パルナートを大空へと羽ばたかせる。


「砲の調子がやや悪いか……?」


 どちらにしろこんな小型船では、空賊に対抗なぞは出来ないのだが、それでも自衛用として装備されている自動砲台の調子が悪いことは、何か心細い。


「おや、あれは……」


 浮遊島から出港し、ややに時間が過ぎた後に、彼アランは遠目にとその生き物を確認する。


「願い竜だ……」


 願い竜、空を生活の糧とする者達の間では関わるなと言われている生き物。その竜の名のように、他のドラゴン型生物と同じ姿格好をしているが。


「やはり、あの翼は綺麗だな」


 アランにとって願い竜と遭遇するのは初めての事ではない。大体三度目である。


「まあ、いい……」


 他のドラゴンには狂暴な個体も存在するが、願い竜に限ってはこちらから手を出さない限り、危害を加えられたという話は聴かない。ただ。


「不吉、ではあるんだよな」


 願い竜のいる所には、人の死あり。そう空を旅する者達には伝えられている。


 コゥウ……


 その願い竜は、アランが実とその姿を眺めている事などは気にした風もなく、何処かへその翼、虹色をしたそれをはためかせて去っていく。


「おや……」


 パルナートの風防、空の風圧をモロに受けるパイロットを守るその器具の内部にと、何かが落ちてきた。


「これは……?」


 願い竜の身体から落ちてきたのは一つのペンダント、それはまさしく今アランがその首から下げている物と同じ物である。


「……」


 恋人にと送ったそのペンダント、それをなぜ願い竜が持っていたのかは不明であるが。


「……急ぐか」


 そのペンダントを実と見つめてしまうと、アランの脳裏には病気で床にふせっている恋人の姿が頭へと浮かんでしまい、気が急いてしまう。


「エンジン出力、六十パーセント」


 空はなお青く、雲の流れも速い。


「外気吸引器、フルオープン」


 その雲からはややに雨の気配が感じられる。アランの飛行船乗りとしての勘だ。


「待ってろよ、今薬を買ってやるからな……」


 願い竜が落としたペンダント、それを胸にしまいつつ、アランはパルナートの出力を上げた。

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